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三四郎外伝「盛り場ブルース」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 9月19日(火)22時23分24秒
返信・引用 編集済
  バブルが絶頂期から急速に土地の幻が消えて札束が街から消えた、
そんな中でも真面目に会社を経営して細々と生きていた人もいた、
私もその中の一人だった、バブルとの面会は数多かったが私自身は
そのようなゲームに興味は無かった、

アジアの大都市でもビル丸ごとが日本の会社の持ち物で名前も日本風に看板が
出ていた、目抜き通りのビル丸ごとが日本人の所有物だったのは珍しい事では
無かった、アジアの盛り場にも日本風のクラブやキャバレーが林立し、

日本で行なっていたように、席についた女の子にお客様が歌う時には付き添って
舞台まで行く事、点呼も日本風で何もかもかわいそうなくらいに、何も知らない
アジアの女性に日本風を叩き込んでいた。

カラオケ専門の店も、VIPと名のついた豪加な内装の店がそこら中にあった、
みんなバブル紳士やバブル会社がCASHで店を開いたのだ、

だが、これは現地で長続きしなかった、着物の下にはジーンズをはいている
女の子も大勢いた、お金の為には彼女達は必死で日本語を勉強した。

私が少し知っていたある男もアジアの大都会でバブルの波に乗っていた、
小さなラジカセの修理工だった男が、会社を興し見る見る大成長し大型のベンツに
運転手をつけて真夜中まで酒を飲み歩いていた、

最初の頃は彼は真面目で控えめだった、 バブルという恐ろしい波が彼を上げ潮に
巻き込んで、学問も無く金が無い事で有名だった男がビルを丸ごと所有して
100名以上の従業員に高給を払い、自らは、金はナンボでもあるからと片っ端から
航空会社の日本人スチワーデスを口説いていた、

彼は独身だった、見栄えが悪く、金を持たない彼は誰にも相手にされないそんな存在
だった、金が彼を変えた、

私はこの男の勃興を点で確実に見ていた、変わって行く彼の態度、
「あのバカがねえ」と顔をしかめる日本人も多くいた。

私は彼がバカか利巧か、彼がどれほど真面目か、どんなキャラなのかそこまでの
付き合いは無かった、共通の得意先で半年に一度くらい顔を合わせるくらいだった。

ある時その男が親しくも無い私に声をかけて来た、

ダブルの仕立ての背広のポケットに手を突っ込んだまま「〇さんよ」と呼びかけてきた。

得意先の廊下からエレベータへ続く廊下で呼び止められた、私は彼の名前さえ
知らなかった、顔と商売の内容は大よそ見当がつく程度の関係だった。

男は「〇さんよ」私が振り返ると、ポケットに手を入れたままガムをかみながら、
「どう、景気は?」と笑いかけた。

関係ないだろうと無視していたら、前に回りこんで、

「〇さんよ、今度うちの会社が上場するんだ、知ってるかい?」

「さあ、知りませんね、それで私に何か?」

「良かったら株を売ってあげようかと思って、さっき見かけたもんだから」

「株?」

「そううちの株、もう倍以上の市場価格がついているけど、上場前の価格でいいよ」

「さあ、私はあんまり解りませんので、他の方にお願いします」

「チャンスなんだよ、これは」と彼は時計を見た、金無垢のローレックスの腕時計が
光っていた、

「昼時だから飯でもどう?車があるから送るよ」

「いや、私は二階建ての車ですから」「えっ?」

「バスですよ」

「まあ、いいじゃないの、初めてだろう僕とは、前から同じ仕事でお互い顔は
 見知っているはずだよ、これからは大きく張らなきゃ成長はしないよ」

大きなお世話だ、これ以上近寄ると股間を蹴っ飛ばそうかと考えていたが、
外国で警察沙汰はマズイ、知らん顔をしていた。

「〇さんよ、あんた俺に妬いているのじゃないの、楽にしなよ、お互いに
 日本人だしよ」

「話はそれだけ?」「そうだが、興味ある?」

「全く無いのでこれで」「惜しいねえ」

彼の会社は上場したが、すぐにストップ安で頓挫した、バブルの崩壊とは直接に
関係は無いが、彼の会社の売り上げが急速に落ちこんで、社有ビルを手放したと
噂に聞いた。

しばらく忘れていたが、彼の会社は社員が数人に減り、膨大なたくわえも株式投資や
不動産投資が暴落して彼の会社は銀行の監視下に入った。

私なら、そこで投げるが、と思ったが彼は根が真面目なんだろう、
もう少し、もう少し頑張ろう、ここさえ乗り切れば、と少しづづ銀行のTRが増えて行った、

当然銀行は個人保証と、物的担保を要求する、
それでも彼はまだ先があると頑張っていた、

ある日、彼から電話があり「〇さんですか」と馬鹿丁寧な口調が響いた、

「はあ、そうですが」「景気はどうですか」

「どうして聞くのですか」「いやあ、うちは参りましたよ、ここを乗り切ればと
思っているんですが」

「そうですか」

「実は、〇さん、少しお金を借りられませんか、ほんの1千万円でいいのですが」

「私は主義としてお金の貸し借りはしない事にしています、人間関係を壊しますから」

その日はそれで電話は切れた。

「♪咲いて流れて 散って行く

  今じゃ私も 涙の花よ

  どこにこぼした まことの涙

  さがしたいのよ 銀座 赤坂 六本木」

「♪お酒のむのも なれました

  むせるタバコに あなたを偲ぶ

  小雪はらって 今夜もひとり

  酔ってみたいの 洞爺 すすきの 定山渓」

彼はアジアの歓楽街から消えた、

噂では日本で会社再建の夢を追い続け、知り合いを訪ねて小さなお金を借り歩いている
と聞いた、私には興味の無い話だった。

私はある夜、銀行の関係者と食事をした、

その時にある人からあの男の話が出た、「亡くなったそうだよ」

「どうしてまた、まだ若いでしょう」

「さあ、見たわけじゃないので、あの風雲児がなあ」

「あの人は風雲児だったのですか?」

「いや、日本人であそこまで大きな波に乗った人は少ないよ」

「ピークか、或いは、下がり始めてイーブンになった頃にズバッと見切りをしたら
 何かが残ったでしょうに」

「人間は真面目な人ほど、それが出来ないのだよ、
 もっともっと、まだまだ、と頑張るからゼロになるんだ」

「なるほどね、私も彼に最後に会ったのは金ぴかの時代でしたよ」

「〇さんはその点、何も変わりませんね」

「皮肉ですかね」

「いいや、継続は力なりですよ」

「ただ靴を減らして走り回っている継続が力ですか、でも人間生きてなきゃ
 何も始まらないですからね」

「それが継続ですよ」

「生きていることが継続なら、ホームレスでも同じでしょう」

「〇さん、冷やかさないでくださいよ」

「銀行さんはいいですね、バブル演出の張本人なのに、国家が預金者保護という
 名目で何兆円も投入して、あなた方はまた銀行の名前を変えて継続ですか」

「これは随分な皮肉ですね」

「彼が風雲児ならなんで困っているときに傘を貸してやらなかったのですかね」

「いや、私等は一兵卒ですから」

「それは言い訳でしょう、アメリカなら銀行でも潰したでしょうね、
 バブルの責任は土地を煽った銀行に一義的な責任ありと私は思っています、
 もちろんそれに踊らされたバブル紳士も悪いが、諸悪は銀行にありますよ」

「・・・」

「♪通り雨には すがれない

  いっそ明日が 来ないでほしい

  すがるコイさん 涙にぬれて

  帰るあてなく 南 曽根崎 北新地」

銭は人間の顔さえ変える、あの男の素朴な顔も知っている、それがベンツに
乗り始め、金無垢のローレックスを腕にした頃の顔は脂ぎって鼻持ちならない
顔になっていた、

あの横柄な呼びかけの時に殴り倒してやっていたらむしろ眼が覚めたかもしれないな、
どっちでもいいが、消えた金は一体元は誰の金だったのだろう。

バブルの終わった 2000年くらいの出来事だった。
 

三四郎外伝「積み木の部屋」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 9月14日(木)23時14分36秒
返信・引用 編集済
  バブル時代というのは86年から91年くらいの間のたった5-6年の
狂乱時代だった。

この前に書いた「夫婦春秋」の偉大な人も87年から90年時代に出会った人
だった、この頃の私はやっと歌の文句のように陽が射し始めて頂上へ駆け上っていた
時代だった。

だが私は「夫婦春秋」の人と会うときには20代のボロ服装に徹していた、
この人に逢ったのは社長の存命の頃だった、そしてバブルの時代まで私との付き合いと
ビジネスは続いた。

私は社長の御供時代の服装に徹してこの人と会っていた、
着飾っても彼の前では到底比較にならない差があるのを知っていた。

その人に会う日はどんな高級な場所にでもボロを着て安物の時計に布切れのような
ネクタイで出かけて行った、その方が私は気持ちが楽だったから。

かれは私のナリを不思議に思った事だろう、口数は少ない人だったがきっとそう思ったに
違いない、

バブルは88年ごろにピークを迎えた。

チェッカーズと中森明菜からそろそろ光GENJIの若者にバトンタッチされていた
時代だった、もう70年代の同棲時代の暗いムードは吹き飛んで、

そして長渕剛の「乾杯」「とんぼ」が大ヒット、演歌では瀬川瑛子が出てきた、

バブルのはじける前の気だるい気配がどこかに漂い始めた頃にもう一人私と接触が
あった男性がいた。

彼はバブル時代の私と同様に30代の男性だった、
何をしている人だろうと不思議な気持ちでいつもAちゃんと呼ばれていた彼に
逢う機会が増えて行った、理由は単純だった、彼があるホテルの海外のフロアーマネージャー
をしていたから。

私がF君と支店を出した東南アジアのある都市の一流の日系ホテルだった、
所謂航空会社系のホテルと言うほうが解り易い。

Aちゃんと呼ばれていた男性はいい男だった、どっちかというと中条きよし氏を
ずっと若くしたような雰囲気と顔つきをしていた。

彼が私達の担当になってくれた、部屋は特別に海の見える上級の部屋を格安で
手当てしてくれた、私達はいつでも今回の泊まりの時に次回の予約と前払いの支払いを
済ませていた、彼にとっては安心できる上客に入っていた。

このAちゃんが時々商用で日本へ来た、
独身なのか既婚者なのかわからない年齢も不詳のホストクラブ風の雰囲気を
させて彼は東京に来ると必ず私に電話をしてきた。

海外のお返しに食事と酒は私の方で接待をした。
「夫婦春秋」の人は失礼にもなると思って私の方から余計な接待は
しなかった、

だがAちゃんの場合は年が近いという安心感もあり海外ホテルの名前も
一流だったので私達も気を許して友達のようにつきあっていた。

バブル紳士だった二人の違いは、
「夫婦春秋」の方は私達の会社のビジネスに関係しており彼の助けを受けていた、

Aちゃんの場合は、恩恵は何も無い、ホテルは別に彼がいなくても問題なく泊まれる、
Aちゃんの存在意義は話が面白かった事と英語が流暢だったこと、いい男だったこと、
だが怪しい雰囲気も同時に持っており、「F君、Aちゃんには気をつけろよ、距離を保て」
と常々言っていた。

この二人に共通なことは、
どういう資金源を持っているのか解らないが、二人とも年齢は違うが金は持っていた
私達は度を超した贅沢はしないように気をつけていたが、彼等はむしろそれを誇るように
金ぴかの服装で代わる代わる現れた。

このAちゃんという人物も歌が好きで上手かった、
彼は光GENNJIのフアンだと言った、だが歌は彼のナリとかけ離れた70年代の
淋しい歌を好んで歌った。

私が覚えているのは、Aちゃんが高級クラブのピアノの演奏で歌ったのが
布施明の「積み木の部屋」という歌だった。

この歌は有馬三恵子氏の作詞になるいかにも女性らしい繊細な悲しい恋を
歌っていた、Aちゃんには似合わないと思ったが彼はどういう訳か何曲か歌うと
必ず最後に「積み木の部屋」を歌った、その直前に歌ったのは「め組の人」という
ムードが全く異なる歌だった。

「F君、Aちゃんって人は奥が深いのか軽薄なのか訳わかんないな」と話した、
「そうだな、彼はどうしてあんなにいつも現金を持っているのだろうか、それに
 〇君見たか彼の時計、ブレスレット、相当なものだぜ」

「うん、それに日本ではどこかにシーマを買って置いてあるようなんだ、
 東京に住まいがあるのかなあ」

「わからん、ホテルの給料がそんなにいい訳も無いし、何やってる金なんだろうな」

「結構ブラックじゃないのか、気をつけろよ」

「女にはもてるだろうな」「そうだな、あの顔であの生活ぶりだからな」

「俺達と同じくらいかな、彼の年齢」

「いや俺達よりも若いと思うよ」

「アメリカに住んだ事があるって言ってたな、道理であの英語は
 日本人の喋る英語じゃない、全部揃ってるじゃないか、彼が人生の階段を
 昇る条件が」

「マイナスはね、彼にはブラックの匂いがするって事だよ」
「そうかい?俺にはわからんけど」F君が首をかしげた。

「♪いつの間にか 君と暮らしはじめた

  西日だけが入る せまい部屋で二人

  君に出来ることは ボタンつけと掃除

  だけど 充ちたりていた・・・

  リンゴかじりながら 語り明かしたよね

  愛はあれから どこへ」

何だか歌手のような堂々とした歌いぶりだった、場慣れしている様子が
伝わってくる。

Aちゃんが席に戻ってきた、

「上手いね、聞きほれましたよ、ところで何を飲みますか
 ここにブランデーのボトルがありますが、作りますか?」

「すみません、僕は酒はやりませんので」

私とF君は顔を見合した似ている「夫婦春秋」の人と、

このAちゃんが女性問題でややこしい事になった、
銀座の女性だったが、亭主がやばい関係だった。

クラブに電話がかかってきた、そして会計の女性がAちゃんを呼びに来た、
「お客様、向うにお電話が入っております」

Aちゃんはちょっと首をかしげたが立ち上がって店の電話の方に歩いた、

前かがみになって彼は何か熱心に話していた、盛んに身振りで何かを否定しているようだ、

Aちゃんが席に戻ってきた、顔色が青い、黙っている。

「どうしました?何かありましたか?」

「ええ」

「誰からですか、どうしてここにいるのがわかったのですか」

「ええ」

「どうしました、具合でも悪いのですか」

「ええ」

私とF君は顔を見合わせた、

やがて私達はその店を出て表通りを歩いた、Aちゃんは後ろで立ち止まっている、
振り返ると三人の男に囲まれて何か声は小さいが、深刻な話のようだった。

私が引き返して、「Aちゃん、どうしました、もう少し先なんんですが」

男の一人が「悪いな、お客さんよ、これは俺達の話だ、黙って帰ってくれ」

「この人はうちのお客さんなんですが、これから商談があるので」

「そうかい、こっちも商談中なんだ、黙って帰ってくれ、いいな」

身のこなしから彼等の素性は大よそ見当がついた、

「すみません、商談はうちが先口なんですけど、今日はうちに譲ってくれませんか」

「あんたも、たいしたもんだな、俺達をわかってながら、そんな口をきく、何者だ
 あんたは」

「いや私は普通のサラリーマンです」

「俺達のことは解って口を挟んでいる、違うか」

「さあ、お宅たちはどこの会社の方ですか」

「さあな、名乗りを上げたらあんたもここから帰すわけにはいかなくなるがいいか」

「いいも悪いも、この人との商談はうちの会社にとっては重要なんです」

「お前さんもしつこいな、ただのサラリーマンじゃねえな」

「ただのサラリーマンです」

「そうか、ここは人目につく、あんたの名刺をもらっとこうか」

「名刺は差し上げられませんが、電話はxxxxです、名前は〇といいます」

「よし、今日はこいつはあんたに預ける、明日の昼間あんたに電話する、
 この件、邪魔した落としはつけてもらう」

「じゃ、その人をこちらへ」

三人はすんなりAちゃんの背中をドンと突き飛ばして私達の方に解放した。

「Aちゃん、誰なんです、何事ですか」

「実は金なんです」

「金、道の真ん中で金の話とは穏やかじゃありませんね、どうしたのか話してくれますか」

「実は女性の問題でこじれて、彼等のところで無理やり金を要求されました、
 持ち合わせがなかったので、彼らに借りという形で1千万の借用書を書きました、
 その他に二枚の用紙に名前だけを書かされました。

 それが利子がついて一億五千万払えと脅されていたのです」

「そんな事ですか、何で借用書なんか何枚も書くのですか、私を呼び出して現金を
 私から借りたらすんだ事でしょう」

「思いつきませんでした」

「場所はどこでしたか」

「新宿でした」

「新宿はどこですか」

「私はそこまで東京に詳しくないので、解りませんでした」

「明日、私の車でその場所へ案内して貰えますか」

「覚えてないのです」

「その話、放っておくと、大変な事になりますよ、貴方の直筆の借用書があれば
 警察に駆け込んでも、向うは一億五千万貸したと言うでしょう」

「どうしたら・・」

「車の中で話しましょう、まず貴方の平素の金の出どこですが、差し支えなければ
 教えて下さい、この件とは別に、あなたは給料のほかにどんな稼ぎがあるのですか」

「・・・」

「言いたくなければ、この件も私は口を挟みませんよ、あなたは逃げられませんよ」

「・・・」

「♪二人ここを出ても すぐに誰か住むさ

  僕らに似た 若い恋人かもしれない

  きれい好きな君が みがきこんだ窓に

  どんな灯りが ともる」

「Aちゃん、貴方ずばり言いますが、会社の金に手をつけてはいませんか、
 ホテルかどこかその関係会社の金に」

「・・・」

「Aさん、あなたは断崖絶壁ですよ」

「正直に話してみてください、助けられるかどうかは解りませんが」

だがAちゃんは、逃げた、その後の顛末は知らない、

翌日にあの三人の誰かから私に電話がかかってきた、

バブルはそれから二年ほどではじけた、海外のAちゃんのホテルは身売りして
現地資本の別の名前に変わった。

「こんな終り知らず 部屋をさがした頃

 そうさ あの日がすべて

 そうさ あの日がすべて」

私がこの歌で思い出す風景とAちゃんが思う風景は違っていると感じた、

バブル時代には特有の匂いのする紳士が跳梁跋扈していた、だが彼等も
一人一人が人間だった、それぞれの歴史とレールの上を走っていた、

私はとうとうバブルには無縁で横から見物するだけで過ぎて行った、どうしたのだろう
あの人、この人。










 

三四郎外伝「夫婦春秋」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 9月11日(月)20時21分36秒
返信・引用
  バブル真っ盛りの頃だった、
私と接触のあったある男性の事を時々思い出す。

私は彼にある憧れを持って少し距離をおきながら眺めていた、
彼は私達と同じ路線のビジネスマンだった、年は私よりは一回りくらい
上だったと思う。

いつも当時としては珍しかったピッタリフィットした仕立ての背広と
腕には煌くような有名ブランドの高給時計が光っていた。

その人には私は随分お世話になった、会社のビジネスも随分助けられた、
彼が現れるのは二月か三月に一度くらいの割合だった。

常にダンヒルの黒の小さなバックを持っていた、一度私は彼の後ろで荷物を持ち
付き人のようにホテルの支払いの列に並んだ事があった。

ダンヒルのバックは伝統的に薄く瀟洒な作りだ、彼がカウンターで支払いの時に
そのバックをあけて現金を取り出すのを見た、当時はまだ日本ではクレジットカードは
一般的ではなかった、東京都心を離れると都内でもカードは通じなかった時代だ。

彼の財布もダンヒルだったが、ゴールドやプラチナのAMEXカードがずらりと並んでいた、
その横に現金が二束入っているのがみえた。

いくら現金万能の日本でも私には何百万円という現金を無造作に持ち歩く人は始めてだった、
支払いは手の切れるような新札で無言のまま何も確認せずに、すっと現金を抜き出して
支払っていた。

「ほな 行こか」

彼はすたすたと歩きだしてタクシーに行き先を告げ、黙って私の奥に坐って外を
眺めていた、「商売 どないやねん」

男は私に聞いた、
「おかげさまで 今月はいい数字が出せました」「そら ええわ」

男はまた黙った、

当時の男は誰でも当たり前のようにタバコを吸ったが、彼はタバコは吸わなかった、
彼は銀座のクラブ、北新地のクラブ、祇園のクラブが大好きだった。

私は社長のお供でこの男の人と何度もそんな場所へ連れて行ってもらった、
男はそのような華やかな酒席と綺麗な女の人が大好きだった、

他には何が趣味で実体は何なのか良く解らなかった、

男は私の肩よりは少し高いくらいの、男性としては背が低いほうだった、
体も細く、痩せ型だった、酒は一滴も飲めない、だが高級クラブに通うのが好きな
人だった、そして歌が好きだった。

私がこの人に憧れたのは
度胸というか どしっと 腹がすわっている事だった、

どんな相手とトラブルになってもビクともしなかった、
彼の度胸はどこから湧いてくるのだろうと不思議なほどに体つきからは
想像もつかなかった。

クラブに行くと最低三軒くらいは梯子をする、黙って坐れば一人5万円というような
高級クラブのネオンの中にぴたっとはまる、不思議なキャラの人だった。

「♪ついて来いとは 言わぬのに

  だまってあとから ついて来た

  俺が二十で お前が十九

  さげた手鍋の その中にゃ

  明日のめしさえ

  なかったなァ お前」

「♪ぐちも涙も こぼさずに

  貧乏おはこと 笑ってた

  そんな強気の お前がいちど

  やっと俺らに 陽がさした

  あの日 なみだを

  こぼしたなァ お前」

この歌がトレードマークだった、十分にクラブが賑わって店が最高潮に
なった頃、彼はおもむろに 歌をリクエストして ママの手を引き舞台に上がる、

体は小さいが声は大きい、歌も上手い、

その人は女性が好きだった、綺麗な彼女も紹介してもらった、
だが彼はクラブに行くたびに店のNO.1と言われるような女性を見事に口説き落として
彼のホテルに連れて帰る、私は唖然として言葉も無かった、

翌朝、ホテルに迎えに行くと、

「や、おはようさん 昨夜はすまなんだな」「とんでもありません、こちらこそ
 ご馳走になり恐縮しております」「まあ、たまにはええがな」彼は日焼けした顔を
ほころばせて笑う。

そんなこんなでだんだん親しくなって、彼の自宅にも招待されたり、
彼の高級車で山の上の料亭で紅葉見物をしたり随分お世話になった。

親しくなってから 私は一度聞いた事があった、

「毎晩のように綺麗な女性をお持ち帰りではお体も大変でしょう」

「そやな、しゃあないがな」何がしょうがないのか私には解らなかった、

その内、いつも連れて行ってもらうクラブでなじみなった女性にそっと聞いて見た、
「あの方、毎晩来られるの」「そうですね、こっちにお見えの時は毎晩ですね」
「じゃお店の女性も総なめでしょう」「違いますわ、あの方は何もなさいませんの」
「え・・?」

後で解ったのだが、その男の人は度胸千両、だが酒もタバコもやらない、
それに女性が好きだが、決して普通の男のするような事はしない人だと知ってびっくりした。

物凄い大金を湯水のように使い、女性に小遣いを上げ、物を買ってあげ、
最後は、ただ添い寝するだけという事をある女性から聞いた。

偉人だ、

私はこの人に物凄く興味を持った、

時はバブル真っ盛り、ベンツが売れ、日本車のシーマという車が飛ぶように売れ、
後は何でも高いほど喜んで買っていく、そんなバブルの真っ盛りだった。

そういえば、彼の行く店について行くと、店の従業員や女の子は一様に私の
質素というかボロの格好に怪訝そうな顔を向けた、

安物のシチズンの時計、丸井の月賦の安物の背広、色が落ちた靴、
見るからに安いと解る、布切れのようなネクタイ。

彼の背広と時計、靴、金縁のめがね、火の玉のような度胸、

何もかも私が口をあけて呆然とするような人だった、
酒も煽るし女も泣かすという 歌があったが、彼は酒は飲まない女は泣かせも
喜ばせもしない、ただ側に寝てもらう為にとんでもない大金を使う、

年はまだ隆々たる壮年だ、

偉人だと私は思った、

男たるもの こうでなければ駄目だ、私は憧れを込めて彼を見ていた。

その人は、住所が三つあった、一つが本宅、二つ目は隠れ家、三つ目は着替えの為だけに
借りているマンションの部屋、

車は三台、全部左ハンドルの黒色、背広は黒と茶色、靴は黒、
時計はキンキラ光るもの、指輪はダイヤ、ネクタイピンもダイヤ、

髪は横がアイパーのかかった、変則オールバック、

でも私はこの人が好きだった、彼の度胸の良さに惹かれた、
物事に動じない、どこから湧いてくるのか拡声器のように大きな声、

そしてバブルがはじけた。

この人の消息が絶えた、私にはまだ解らない大人の世界の何かがあったのだろう。

「♪九尺二間が 振り出しで

  胸づき八丁の 道ばかり

  それが夫婦と 軽くはいうが

  俺とお前で 苦労した

  花は大事に

  咲かそうなァ お前」

私は女に惚れる、

だが私は男にも惚れる傾向がある、彼もその中の一人だった。

「ついて来いとは 言わぬのに

 黙ってあとから ついて来た

 俺が二十でお前が十九・・」

この歌が好きだった人、
この歌が彼の人生だったのかなァ お前・・・
 

三四郎外伝「理由ーわけ」」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 9月 5日(火)18時15分13秒
返信・引用 編集済
  昭和50年代に「昔の名前で出ています」が大ヒットした、

そして追いかけるように夜の盛り場を舞台にした男と女の物語が
女たちを泣かせ泳がせ華やかな彩りで昼間の世界とは別世界の物語が
多く語られた。

銀座「姫」のママであり作詞家であった山口洋子氏が実生活で見た世界を
綺麗に残酷に華やかに描いたのが中条きよし氏の歌った「嘘」と「理由」。

中条きよし氏は70歳を過ぎた現在でも当時の色気とダンデイさを持ち続け
その歌声は若い頃と何にも変わっていない、顔も雰囲気もこの人は元祖ホストクラブ
と呼ばれるだけの特別な雰囲気を持ち続け、根強い女性フアンが多くいる事で知られている。

今から40年以上も前に当然私は若かった、こんな大人の歌を理解できる場所へは
顔も出した事も無かった、

後年、それから10年以上経って私が銀座に足を踏み入れた頃にああそうか、
これが山口洋子氏の書こうとした夜の女たちの恋だったのかと気がつき始めた。

「嘘」が大ヒットし中条きよしさんは紅白に出場したように記憶している、
その何年か後に二部作のように出された曲が「理由ーわけ」という歌だった。

「♪あのひとと別れた理由は 何でもないの

  夜明けに帰って来た 彼の

  背広についてた 口紅が

  許せなかっただけのこと

  マージャンしてたと 言いわけも

  投げ出すように 冷たくて

  熱いコーヒーいれながら

  もうおしまいねと 泣きました」

「♪あのひとと別れた理由は 何でもないの

  夜中にかかって来た 電話

  あのひと出してと 親しげな

  若い女の笑い声

  誰よと責めても 答えない

  煙草輪にする 横顔に

  男ごころを見たようで

  もうこれきりねと 泣きました」

私は商社を辞めてから 二度ほどカナちゃんに会った事がある
一度はお堀の法政大学に続く道で二人でお握りとビールを飲んだ、
二度目は神田の駅前でばったり会った。

「よう、久しぶりどうしたの」

「あら○君、どうしたの」

「どうしたのって君こそこんなところで何しているんだ」

「会社の用事でここから近い場所にある商社を訪ねて行った帰りです」

「ああ、あの美土代町にあるあの商社かい」

「そうです」

「これから会社に帰るの」

「うん、だけどせっかく○君と会えたのだから・・」

「どっかで飲もうか」 「いいですよ」

私たちは神田の駅から近いサラリーマンの集まる居酒屋に入った、

店はもうもうたるタバコの煙の中で叔父さんばっかりの集団が盛んに飲みながら
何か議論をしている、右も左も前も後ろも叔父さんの集団にカナちゃんという女性が
一人挟まれた格好になった。

「何飲む」「ビール」

「それとこれとこれとこれ、食べよう」「いいわ、にぎやかねここは」

「サラリーマンの楽しみは麻雀かこんな場所しかないんだよ」

「そう、男の人って楽しみが無いのね」

「カナちゃんたちは会社が終わったら何しているの」

「そうね、習い事に行く人もいるし、彼氏の居る人はそっちの方でしょう、
 私はそうね まっすぐ帰るわ」

「本当かい、会社のみんなは元気か、課長や係長はどうしてる」

「課長は毎日部長に怒られているわ、そうそう○君の同期ですかあの上の階の人
 Fさんって言ったっけ、この頃私のところに良く来るわ」

「ふーん、カナちゃんが好きなんじゃないか」

「そうかしら、私は○君が好きだったけど」

「過去形かい」

「違うわ、今でも想いだすわ、好きかって聞かれたら、良くわからないけど
 会いたいなあって思うときがあったわ」

「みんな過去形じゃないか」

「でも今は現在進行形よ、池上線にはあれから一人で行ってきたわ、
 ○君がいるような気がして」

「いる訳ないじゃ、あれは仕事で行っていただけだから」

「○君は、誰か彼女できた」

「いいや、今の社長の仕事を覚えるのに大変だし、周りは女っけは無いし」

「ここにいるでしょう、ほら、私よ」

店の有線放送が流れてきた、

「♪ あのひとと別れた理由は 何でもないの

   お休みぐらいは 家にいて

   ふたりでゆっくり しましょうと

   甘い約束したあとで

   仕事があるよと 新しい

   ネクタイしめて行く 背中

   ドアにもたれて 見送って

   もう今日かぎりと 泣きました」

「カナちゃん、酔ったみたいだね、無理するなよ」

「ねえ、○君、貴方の家はここから遠いの」

「いいや、御茶ノ水で乗り換えて 各駅停車で直ぐだ」

「どんなところかしら」

「ちいさなアパートだよ」

「私はずっと実家しかしらないから アパートって見てみたいな」

「普通だよ、どこにでもある狭い部屋だよ」

「どこの駅なの」

「市ヶ谷だけど」

「ああ、フジテレビとか日本テレビのある駅ね」

「フジテレビはすぐ近くにあるけど」

「今から見に行っていい」「フジテレビをか」

「○君の部屋を」

「どうしようかな」

「誰かいるの女の人」

「そうじゃないけど、カナちゃんは前の会社の同僚だし、カナちゃんは
 真っ白でいた方が俺にはマドンナのようで、その方がいいんだけどな」

「それ、お断りって意味」

「カナちゃんに悪いからだよ」

「私は大人よ、いろんな意味で○君よりも大人よ」

せがまれて駅から坂道を上がり始めた、「いけない」という気持ちがずっと
坂道を上がるにつれて強くなってきた、本能の欲望と自制心が猛烈に戦っていた、

カナちゃんが腕を回してきた、肘がカナちゃんの胸にボンボンと当たる、
二人とも若い、火がつくのは簡単だった。

部屋のドアを閉めたとたん、カナちゃんが首に手を回してスカートの横ボタンを外して
猛烈なキスと足を絡めてきた、

「もう駄目だ」私はカナちゃんから湧き上がる女の匂いにくらくらとした。

「○君、・・・抱いて」

「♪あの人と 別れたわけは 何でもないの・・」

今でもこの歌を聴くとあの日の出来事を想いだす、

カナちゃんの実家は江戸の老舗の暖簾を受け継ぐ立派な家柄だった、
子供の頃から何の汚れも心配も無く一流女子高へ東京でも有数なお金持ちの
集まる私学がカナちゃんの母校だった、

世の中には確かに階級というものが存在すると私は実感した、
いい人か悪い人かの区別ではなく、上流、下流の格差は厳然と存在すると
私の心に刻み込まれたのがカナちゃんだった、これがお嬢様という東京の上流家庭の子だ、

下流からなりあがろうとしている私にはその感触がすぐにわかった、
育ちがいいか悪いか、女は抱いたらわかると気がついた。

私が少しづつ怖気づいていくのが自分でも解った、カナちゃんのご両親が私のような
田舎の下流人間を受け入れるだろうか、カナちゃんの家の生活に私がなじめるだろうか、
私はカナちゃんを抱いた後、ベッドですやすやと眠るあどけない感じの無防備なカナちゃん
を見つめて、

私がこれ以上かかわるとカナちゃんの将来によくないと柄にも無く自分を制した、

「○君、また会えるでしょう」背伸びをして舌をからめてくるカナちゃんの甘い香りに
負けそうになりながら、駅まで送っていくよと手をつないで坂道を下った、

駅まえに公衆電話ボックスがずらりと並んでいた、
その一つにもたれかかりながら、カナちゃんは私の耳に「○君、とっても美味しかったわ」

といって私の耳を噛んだ。

「あの料理かい」

「バーカ、貴方の体が美味しかったの、また食べたいわ」

「カナちゃん、家に電話入れておかなくてもいいの」

「うん、日本橋の地下鉄付近から電話入れるわ、○君、また会ってね」

「・・・」

「あの人と 別れたわけは 何でもないの・・」

私はカナちゃんが改札口に消えていくのを見送って、

「俺は田舎者だ、千雪が似合いの女だ、カナちゃんには丸井の月賦の服や
 コートは似合わない」

「私の買った月賦のピンクのコートを喜んで飛び跳ねる千雪が私には似合いだ」

カナちゃん、サヨナラだよ、

私はずっとカナちゃんの消えた改札口を見つめていた、ここから出てくるのは
カナちゃんか千雪か、

犬ころのように転げて私に飛びついてくる千雪は私の買ってやった安物のコートと
固い革の白いハンドバックを大事に大事に胸に抱えている、

カナちゃんのバックはヨーロッパのブランドの質素な色合いのものだった、
その違いが私の心を余計に千雪に傾けていく。

固いバックを大事に大事に抱える千雪、ブランドのバックをさりげなく持つカナちゃん、

「別れたわけは 何でもないの・・」

 

三四郎外伝「おゆきという女」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月31日(木)18時15分39秒
返信・引用 編集済
  私が30歳を過ぎた頃
ようやく陽が射してきた私の歩く道、

もう11年も前だった
三四郎兄さんが生死の境をさまよう重傷を負って
私も意識不明になるほどの輸血を場末の病院で行った、

殆ど同時に二人は意識が戻って
銭無しの田舎ものの何のとりえもない私に
三四郎さんが「お前は俺の血を分けた弟だ」と公表し
私の周囲が変わり始めた。

地を這うような最低の生活をしていた私の宿願の
詐欺師の叔父が振り出した手形が三四郎さんたちの手に落ちた、

住所が調べられ、社長の好意と三四郎さんの助けでケンさんが
陣頭指揮をとり叔父の隠れ家を急襲した。

父の残した田舎の土地家屋財産が手際よく彼らの手で専門的に
ある時は強引に法的な手続きをすませてそれらが母の手に戻った。

その後の私は社長に可愛がられ、大学卒業後に入った大商社での生活も
神戸から東京本社と子供から大人への道と社会生活を順調に歩いて行けた。

女性という異性を知ったのは同年代の男性に比べてはるかに遅れて22歳で
初めて女を知った、教えられた、母も落ち着き、父の墓も立派に建て替えて
姉も幼い頃に失った笑顔を取り戻した、私は人生の前途を改めてしっかり見つめて
進み始めた。

東京本社に戻ってから社長の会社の担当にされ池上線沿線から池袋から埼玉方面の
成型工場を広く歩いた、いつも元気でやる気満々な毎日だった。

母は私が苦学をして大学を卒業して商社マンになった事を父の位牌に涙を流して
報告していた、私は幸せの絶頂にいた。

些細な事で大株主で会社のメインバンクの御曹司と殴り合いの喧嘩をし
彼の目と喉とかなりの傷を与えた、傷害事件にはならないように会社が計らったが
私は商社を辞めなくてはならなくなった。

人生劇場は私の幼少期から青年期そして大人への階段の途中でも私を揺さぶり続けた、

そして社長に拾われて社長の秘書兼運転手兼債権処理の助手として全く想像もしなかった
新しい次の人生劇場を歩き出した、

親友であったF君以外は私の知り合いは普通の人たちではなくなった、
そんな人たちに囲まれて私は自分の生きる方向と方便を実地で体で学んでいった。

それから
社長の別会社を引き継いだ私は曲がりなりにも社長というタイトルと
大手得意先の役員クラスや銀行の支店長と頻繁に会うようになった。

だが私の心はいつも高校時代を懐かしみ田舎の山や川を懐かしみ
年をとることに大いなる抵抗感を持った、一風変わった人間として
人との付き合いを限定し、F君や早紀子が嫌がるのを尻目に三四郎さんたちの
仲間と金銭抜きのある感情を持った別の友人として会って会食や酒の付き合いを
続けていた。

これを心配する物産の部長、後の常務も、Dさんも、私に十分に身辺の人間関係に
注意を払うようにアドバイスと警告をしてくれていた、だが私にはどん底から救って
くれた彼らの助けが無かったら今日の自分は存在しないという確かな自覚があり、

必要な行為であり感謝の気持ちだと言い聞かせて自分の行動は自省しながらも
止めるつもりはまったく無かった、彼らの助けが無かったら父の残した遺産も
母の安泰も全てが私の手の届かぬ虹のかなただったと信じていた。

私は父の戦時中の苦労はもう的確に理解している、戦争は知らないが父が国の為に
遠いビルマの果てまで陸軍の航空部隊と共に進出し、悲惨な逃避行の話も助けた
中尉の話も、英軍の重戦車の轍の音も、スピットファイアーの上空乱舞と機銃掃射も
繰り返し繰り返し、母に補填してもらいながら胸に刻み込んでいたから。

私は詐欺師の叔父を殺してでも取られた財産を取り戻そうと東京に出てきた、
今考えれば荒唐無稽な計画であったし実現の可能性は殆どゼロであった。

それを助けてくれたのが彼らだった、私には生きていく為の干天の慈雨のような
存在にしか見えなかった、なぜ人は彼らを悪い人と言うのか、私には反発があった。

30歳を越えた頃、元貧乏人の私が外車に乗り、銀座のクラブに出入りをした、
過ぎたるは及ばざるが如しと戒めながらもいつかそれが日常になっていった。

私は陽の射す場所と日陰の境界線に立ちながら同年代の友人も無く、
遠くを懐かしむような心のままで毎日を行き当たりばったりのままで川の流れに
身を任せて流れていった。

千雪という貧乏と、早紀子というある階級の女性の間で、ちょうど陽の射す場所と
日陰の場所を行き来するように過ごした。

「涙の連絡船」の話に出したスナックがその中間の憩いの場所になっていた、
誰も知らない、私も名乗らない、愛想の無い女が二人気だるそうにカウンターに居た。

おゆき、
こんな名前で呼ばれていた女が新しく店に入ってきた、

千雪の面立ちを細くしたような純粋だけど何か哀れを誘うような女だった、
この女が新しく私の話し相手になった。

「おゆきなんて、本名じゃないでしょう」
「このお店ではね、おゆきです」

「どんな字を書くの? 由紀なの?」

「いいえ、本名は雪です」

「それも珍しいな江戸時代みたいで、綺麗な名前だよ女の子の雪という名は」

「ありがとう」

「それで おゆきって呼ばれるようになったのか」

「そう、北の生まれだから」

「当てようか、山形でしょう」

「どうして、当たったわ、そう山形よ」

「ふーん、山形の雪さん、千雪か、みんな雪国だな」

「誰、千雪さんって」

「・・・」

「♪持って生まれた 運命まで

 変えることなど できないと

 肩に置いた手 ふりきるように

 俺の背中に まわって泣いた

 あれは・・・

 おゆきという女」

「♪少し遅れて 歩く癖

  それを叱って 抱き寄せた

  つづく坂道 陽の射す場所に

  連れて行きたい このままそっと

  あれは・・・

  おゆきという女」

「おゆきさんか、随分古風な源氏名だな」

「前のお店でママがつけてくれたの」

「おゆきって、気に入っているの」

「別に・・」

「珍しいよ、おゆきなんて、ゆき子とか、千雪とかなら普通だけど」

「また千雪さんですか?そんなお名前の人をご存知なのですか」

「そうだね」

「羨ましいわ」

「何が」

「貴方は男だから、羨ましいわ、男だから・・」

「♪湯気に浮かんだ 茶柱で

  明日を占う 細い指

  どこか不幸が とりつきやすい

  そんな気がする ほくろがひとつ

  あれは・・・

  おゆきという女」

同棲のような社内関係を持っていた早紀子と結婚の話が出た、
お父上にお会いしたが、私には近寄りがたい上流の東京の人だった。

千雪はいつまでも犬ころのように 私にしがみついてくる、
私には千雪が「おゆき」の歌の女のように思えていた、

スナックのおゆきが 例のサラリーマンと喧嘩をした男に付き纏われている
という話が別の女から聞かされた。

私はたびたび店に行っていたが、どういうわけか前は必ずあったあの男に
遇わなくなった、

おゆきと名乗った女が店を辞めた、
ほかの女に聞いてみたら、「あの子、この間、一人でずっと泣いてたわ」
そう言った。

男もおゆきも 店から消えた。

そして私もあの店に立ち寄ることも無くなった、

早紀子の母上から「お返事を聞かせて下さい、一度貴方のお母様にお会いしたいのですが」
と言われた。私は早紀子に千雪のことを打ち明けた。

早紀子は泣いた、

私は二人をおゆきにしたらいけないと、早紀子に返事を待ってもらうように頼んだ、
早紀子はまた泣いた。

男だから羨ましいとおゆきが言った、私は泣ける女の方が羨ましいと思った。

「あれは・・

 おゆきと いう女」
 

三四郎外伝「涙の連絡船」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月26日(土)22時34分38秒
返信・引用
  私が良く顔を出していたカラオケスナックで会った男、

彼が必ず歌うのが「涙の連絡船」、この男はいつも私の座るカウンターの反対側に
坐ってこの歌をうたっていた。

雨の夜、用事があって時間つぶしにこのスナックに立ち寄った、
男はやっぱりカウンターの端に坐って何か飲んでいた。

私は人と眼はあわせないようにしている、ドアをあけた時に人の配置と顔や服装を
大体だけど頭に入れる、それ以上の余計な動きやはしないようにしていた。

男の服装は夏だったので当時アロハシャツと呼んでいた模様入りのシャツを
ズボンの外に出してジーンズに不似合いな黒のビジネス靴をはいていた。

私は見知った女と冗談をいいながら数人の客の歌う酔った声に耳を傾けていた。

その時、歌の順番が違うと怒鳴った男が他の客ともみ合いになった、
相手は普通のサラリーマンの叔父さん二人、男はこの二人に過剰反応と思えるほどの
怒りを見せた、そして殴り合いが始まった。

私は用事があるのでそろそろ行かなくてはと思いながら三人の喧嘩を見ていた、

店の女が「ねえ、ねえ、警察呼んだ方がいいかしら」と誰にいうとも無く繰り返した、
喧嘩の原因は「涙の連絡船」を同時にあの男とサラリーマンが申し込んでいて
サラリーマンの叔父さんが舞台に上がって歌い始めた事で男が切れたようだ。

かなり年配のサラリーマンの叔父さんも元気が良かった、大丈夫かと思われるような
立ち回りを演じていた、

帰ろうと思って、「お勘定お願いします」と二度言った、女がやっと上の空で
伝票を私に「ありがとうございました、すみませんお客さん」と私に頭を下げた。

お釣りをもらって出ようとした時に悲鳴が上がった、

どっちがどうだかわからない三人の喧嘩の中で血が見えたのだ。

帰りかけた私はもう一度席に座って成り行きを見た、
何でそうなったのか解らないが、血を流しているのはいつもの男だった。

刃物か、

いや違うようだな、暗がりの中を良く見ると、どうやらサラリーマンの叔父さんが
事務用のボールペンで男の顔を刺したようだ、男の頬からかなり血が勢い良く噴出す
ように床に落ちていた、男は聞き取れない何かを叫んで椅子を振り上げて逆襲した。

叔父さん二人も酒が入っているからだろう、更に血を流す男の髪の毛を引っ張り
猛烈に殴っている、「たいしたもんだなあ」と私は叔父さんたちの奮闘を見ていた、

男がカウンターの方に駆け寄ってくる、私は女に「包丁を隠せ」と指指しながら言った、
女はうろうろしている、「早く包丁を隠せ」と言うと、年上の女が布巾で包んで下の食器
置き場に入れて隠した、二本とも隠した。

男は案の定
カウンターに駆け寄り、包丁があった場所を見た、その時私と正面から眼があった、
男は頬の二箇所を貫通されてかなりの出血をしているようだ。

男が店の黒電話でどこかに電話をした、

叔父さんたちは店を出ようとしていた、男は店のドアに立ちふさがり「逃がさない」
と小さな声で言った、叔父さんたちは、「うるさい」と体でおした、そこでまた
三人が殴り合いを始めた、

「ねえねえ、どうしたらいいかしら」女がまた私に聞いた、私は黙っていた、

思ったとおり、ドアが開いて三人の普通でない男達が入ってきた、

叔父さんたちは店の隅に押し込まれて、どうやら凄い脅しを受けているようだった。

叔父さん二人は襟首をつかまれて表に連れ出された、車の発車音が聞こえて、
店はタオルで頬を押えた男と私の二人だけが客として残った。

男はチラチラ私の方を見ていたが、痛さに耐えられなくなったのか、
よろめきながら勘定を払って店をでようと私の後ろに来た。

「良く逢うな」男が私に言って横に坐った、

「さあどうかな」と私が言った、男は「うーん」と頬杖をついて私に何か言いたそうな
様子でにじり寄ってきた。

「医者に行った方がいいんじゃないか、化膿するぞ」男はじっと私の方を見ていたが、
やがてよろめきながら、椅子の背にすがりながら店を出て行った。

客は私一人になった、
「お客さん歌いますか」女が言う、

店には「涙の連絡船」のカラオケがかかってきた、

「♪いつも群れ飛ぶ かもめさえ

  とうに忘れた 恋なのに

  今夜も汽笛が 汽笛が 汽笛が

  ひとりぼっちで 泣いている

  忘れられない 私がばかね

  連絡船の 着く港」

「♪きっとくるよの 気休めは

  旅のお方の 口ぐせか

  今夜も汽笛が 汽笛が 汽笛が

  風の便りを 待てという

  たった一夜の 思い出なのに

  連絡船の 着く港」

「歌おうか、景気づけに・・」女に言って私がマイクを握った、

「♪ 船はいつかは 帰るけど

   待てど戻らぬ 人もある

   今夜も汽笛が 汽笛が 汽笛が

   暗い波間で 泣きじゃくる

   泣けば散る散る 涙のつぶが

   連絡船の 着く港」

これがあの男の十八番か、

歌い終わって席に戻ってもう一杯水割りを飲んだ、

「傘お貸ししましょうか」女が言った。

外はどしゃ降りだった、

私はちょっと離して停めてある車に乗って上着を脱いだ、

凄い雨だった、

車のライトをつけてエンジンをかけ、暖房を入れてワイパーを激しく動かした、
しぶきの上がる道をゆっくりと国道に向って左折した。

「♪泣けば ちるちる 涙のつぶが・・」

いい歌だなあ、私は鉄さんとの約束がある八重洲のクラブに急いだ、



 

三四郎外伝「知りすぎたのね」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月20日(日)23時17分21秒
返信・引用 編集済
  この曲は私がまだ高校生の頃にラジオで聞いた、
それからずっと時が経ち、私が新宿を徘徊するようになってから
再び、当時のサパークラブで専属歌手が歌っていたのを聴いた。

いい曲だと思った。

フロアーでは大勢の当時のお金持ちクラスの男性が美しい女性と
泳ぐように踊っていた、それを私は社長の鞄持ちでカーテンの陰に立ったままで
聴いた、いい曲だと思った。

それから忘れかけていたが、折に触れてこの曲が耳に入った、
みんな男女が踊れる場所で流れていた、私は外国の曲だと思っていた。

ぼんやり見ていた当時の私は半分学生、半分は社長の鞄持ちと車の運転手が職業だった、
この曲はタンゴかな・・とぼんやり見つめ聴いていた。

後にロス・インデイオスというグループが歌っているのをクラブで見て聴いた、
その頃赤坂には巨大なキャバレーがいくつかあった、その内の一つでこの曲を聴いた。

ロス・インデイオスとは英語で「The Indians]という意味だと知ったが、スペイン語の
方が日本のムードに合うようで多くのスペイン語の歌詞が流行していた、確かグループの
中に女性がいた、後のシルビアという女性は単独でシャンソンか何かを歌っていた女性だと
教えられた、綺麗な人だった、私には全てが高い高い高峰の花だった時代だ。

後に社長が亡くなられてから、F君と二人で良く飲み歩いた、不思議な事に一定の間隔を
おいてあちこちで「知りすぎたのね」を聴いた。私がまだ若かった時代だ。

「♪知りすぎたのね あまりに私を

  知りすぎたのね 私のすべて

  愛は終ね 秘密がないから

  話す言葉も うつろにひびく

  嫌われたくなくて 嫌われたくなくて

  みんなあなたに あげたバカな私

  捨てられたのね 私はあなたに

  いいのよ いいの

  作り涙なんか」

私はこの歌を別の角度で覚えている、

私を通り過ぎて行った 多くの友人たち、会社の社員たち、「知りすぎたのね」は
私には友人や会社の社員達による裏切りや思わぬ人の離反を強く思い出させる。

「知りすぎたのね」

ふとしたきっかけで人の本性を見る事がある、思わぬ言葉に隠れた意図を見る事がある、
そんな時にはいつも積み木が崩れるような絶望と悲しみに襲われた。

心から信じて全力で面倒を見た社員の裏切りも、今度は私が「知りすぎた」からわかった、
「知りすぎる」事は果たして人生にとっていい事なのかどうなのか、いつまでも考える。

「嫌われたくなくて 嫌われたくなくて・・」
別に社員に対してそこまで気を使わなくてもと思ったが、友人に対してそこまでして
上げなくてもと思った事も何度もある、だが人間は表の顔と裏の顔が必ずある事を学んで
しまった、「知りすぎたのね」この言葉どおりに。

煌びやかなナイトクラブ、サパークラブの時代、社長のお供の田舎者は東京の煌きに
クラクラした、それをなぞるように流れた東京の歌が「知りすぎたのね」だった。

私はもっと灰汁の強い 演歌の方が自分の境遇に合っている、
だが自分で歌うことはずっと無かった「知りすぎたのね」は私には男女の恋の終りとは
受け止められなかった、第一こんなにスマートで都会的で格好いい恋なんかした事は
無いから、

私に取ってのこの歌は私が見た人の本心、本性、期待を裏切られその怒りと
ストレスを笑うように聞こえた、

社長のお供の時代には何も考えずにフロアーを泳ぐように踊る男女の向うで
流れる優雅な都会の歌だったが、

大人になっていった私、社長の会社を引き継いで資金を心配したり、
損益を夜遅くまで考えた時代、私が祈るような気持ちでかけた期待と情けが
裏切られる瞬間にこいつもやっぱりそうなのか・・「知りすぎた」と感じた。

アメリカの映画が好きで良く観るが、NYのギャングの実在の大親分は「Fuck] という
上品とは言えない卑猥な言葉で彼の全ての感情を表現したと知った。

食べ物が美味しいとき「ファック」と一言、手下に「良くやった」と褒める言葉も
「ファック」、怒って出て行けという時も「ファック」と一言、この野郎へまをしやがって
殺すぞも「ファック」、女と寝るとき、イク時には「ファーック」と叫ぶ。

手下が「あの野郎をさらって海の底に沈めましょうか?」と大親分に聞く、
親分は「ファック」と答える、「殺れ」という意味だ。

手下が「明日カナダから荷物が入るが途中で強奪を」と持ちかけると大親分は
「ファック」と答える、もちろん襲って荷を奪え」という命令だ。

嬉しいときも悲しいときも怒ったときも全て「ファック」余計な事はしゃべらない、
誰に言葉尻を取られるかもわからない、彼は人生の殆んどを「ファック」この一言で
済ましたという実に偉大な実在の人物だ。

私もここまで達観できれば、ストレスは無いだろうが、思い悩むのが小人物の証拠だ、

「知りすぎたのね」は美しい歌詞と美しいメロデイで私を笑っているように聞こえる、

私も全てを「ファック」この一言で、いやこの一言しか言わない人間にまで悟りが開けたら
と今更ながら、その大親分を偉い人だと思う。

別にこの親分を尊敬はしないが・・・

久し振りに「知りすぎたのね」のギター演奏のCDを繰り返しかけてみた、三時間も
この曲だけをリピートさせて聴いていた、

「ファック」人生はかくあるべし、

 

三四郎外伝「人生かくれんぼ」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月16日(水)00時05分52秒
返信・引用 編集済
  年を取るほど孤独になる、
定年とはまさに孤独の始まりであり、高齢者に類別されたらそれも孤独の始まりである。

若い時に拗ねて、
孤独になりたい、孤独がロマンチックだと石川啄木を気取って無理に一人切りになったり、
田舎で一番高い山に登って青空の雲を見上げたり、馬鹿な少年だった。

だが現在の孤独は望んでなった孤独では無い、今ではいつでもハイハイと元気に出て来てくれる
友人がいないのだ、自分の体の動きが遅すぎて自分のペースでなければ生活できなくなっているのだ。、
そんな孤独は、孤独だなあと思う。

今日は終戦記念日、敗戦記念日だ、
毎年父の背中と肩車を思い出す私は父が復員して父が50代になってから
産まれた子供だった。

当時の戦時下の惨めだった話が盛んにTVに登場するが、時間というものを考えていない、
今の基準から言えば惨めだろうが、当時の日本は世界を知らず比較対象を知らずに結果的
にそうなっただけだ。

今日はインパール作戦の軍部の無茶な作戦と悲痛な兵士の叫びをNHKで特集していた、
牟田口司令官を擁護する気持ちは毛頭・全く無いが、父のいたビルマの陸軍航空戦力は
この作戦発動前に既にボロボロだったと母から父の命日に話を聞いた。

作戦が無茶なのではなく、
英軍に敗れ、補給に敗れたのは、航空兵力と重火器の差があの悲惨な大敗北に
なったと信じている。

英軍のように航空兵力が充実していたら何も徒歩で山を越え、河を渡る必要は無かった。

アメリカとの戦争経験でガダルカナルを経た昭和19年(インパール)当時なら

一に航空支配、二に重戦車と重火器、三に航空機による補給路の確保、結局は航空支配競争に
勝った方が戦争に勝つという原則は既に身を持って学んだはずだ、

日本が破竹の進撃を続けた昭和17年初頭の強さは、零戦、隼という航空支配、制空権の
下を水上部隊や陸上部隊が制空権のある範囲を進撃したのだ、比類なき強さで打ち砕きながら
進撃したのでは無い、航空支配が勝利の絶対条件だった。

だが国力が重火器を許さず、国力が重火器の輸送を許さず、国力が糧食の輸送を許さず、
国力が戦争エリアを航空支配するという原則を許さなかったのなら何を言っても仕方が無い。

70年から80年いや100年前に欧米諸国がどのような兵器を
持っていたか、造ろうとしていたか、

ドイツ駐在武官などはつぶさに知る立場にあったはずだ、米国留学組みが多い
海軍は米国の自動車産業を見ているはずだ、自動車産業はイクオル航空機のエンジン能力だ、
学ぶチャンスは沢山あったと思う、

私如きがコメントする問題では無いが、韓国が80年前の出来事を現在のモラル基準で
叫んでいる幼稚さは大いに笑うべきだ、安倍首相もトランプ並みにツイートすべき時だろう。

慰安婦は売春婦、強制労働は捏造、竹島は日本領土、どんどんツイートすべきだ、
国交断絶も考えているよとツイートすべきだ、だが日本政府は何にも言わない。

国家の恥と先人の恥を見過している、日本の戦争をあれやこれやの批判をするよりも事実を知る
べきだ、、歩兵の携行武器も連合軍の標準に比べて遥かに劣っており戦車も重砲も連合国の
基準から大きく遅れていた、負けたのは必然だけど韓国にあれこれ上から無い事、無い事を
責められるべきでは無い。

朝鮮半島の在留邦人が敗戦と同時にどれほど現地で虐殺されたかどれほどの私有財産が
現地人に略奪されたか双方向で報道すべきだ。

日本が一人平和を叫んでも
隣国が攻撃の意図を持てば無抵抗でも戦争は必ず再来するのが人間の業だと思う。

人生の終盤に入ると、
人から隠れて暮らしたいという思いが強くなる、孤独という言葉では言い表せないほどに、
人嫌いになる、サラリーマンなら定年を境に、自営業なら加齢に従って自然に人生を
ひっそり隠れて過ごしたい、誰とも会いたく無いと思う時が来る。

私はそんな時、一人でギターを弾いて歌う、ギターが弾けるのは私の唯一の慰めだ。

「♪わかるもんかよ やさしさだけじゃ

  生きてゆけない 男のにがさ

  バカな奴だよ 背中をむけて

  ちょいと 人生かくれんぼ

  意地をとおして ひとりぼち」

「♪時がうつれば 世間もかわる

  変わりようない おいらの心

  酒よ今夜は 酔わせてほしい

  ちょいと人生 かくれんぼ

  泣いて笑って 生きてゆく」

この曲は弦哲也氏の作曲でギターにとてもあう、
前奏の部分から自分で自分に酔ってしまう、年はとっても一人でも
自分の世界の夢はまだある、

だが今に指も動かなくなるだろう人生は長寿になったのでは
無く、相変わらず70代から多くの著名人がこの世を去っている。

この頃、夜更かしのくせが出来た、

二時、三時と時計の針を見てあわててベッドに入る、
天井を見る、一人だ、何の音もしない、また起き上がって落語のCDをかけて
いつものように途中まで聞いたら寝込んでしまう、

これも人生かくれんぼの続きだろう、

あれも夢ならこれも夢、

だから人生かくれんぼ、孤独死を心配するよりも自分でかくれる方がずっといい、

「酒よ、今夜は酔わせてほしい・・」わかるなあ。

F君から終戦の日に関連して電話が来た、宮崎地方は連日大雨だと言っていた、
「〇君、どうだ元気でやっているか、君の父上に逢いに靖国には行ってきたか、
 俺の気持ちも一緒に届けてくれ」

「いや今年は行きたくない」

「どうしてだ」

「日本という国が俺達が思っているような国では無いように感じるからだ、
 安保法制に反対のデモにあの文科省の前川が参加していたというニュースを聞いて
 すっかり嫌になった、韓国に対しても何にも行動で示せない現在の日本を
 父に報告なんか出来ないから、今年は靖国には行かないよ」

「そうか、結局俺達二人があの商社で同期で出会って、今日まで俺には君しか友人は
 出来なかった、君も俺しか誰もいないだろう」

「自惚れだな、相変わらず、まあ本当だ、君だけが俺の青春時代の思い出の中にいる」

「カナちゃんはどうしたかな」

「カナちゃん?どうして突然、知らないな、江戸の鉄火のお姉さんだったけど
 どうしてるかな、もうお互いに老けた顔で逢いたくもないだろうよ」

「三四郎さん達は元気なのか」

「ここのところ逢っていないが、あの人たちはみんな元気だよ、俺達のように
 あれこれ考えないからだろうな」

「〇君」

「どうした」

「もう少し元気でいような、二人とも、俺達どっちかが欠けたら両方ダメになって
 後追いするような気がしてならないよ」

「大丈夫だよ、俺は君を東京駅に送って出征兵士を送る歌を大声で歌ったあの日を
 忘れたことなんか一度も無い、今でも君に対してはあの当時の年齢のままでいる」

早紀子が珍しくお洒落をして
「貴方、今日一緒に出かけませんか、お盆のお休みですし、千雪さんにも何か
 送ってあげたいから、一緒に映画でも観ませんか」

「そうだな、老人デートもいいだろう、だけど雨だよ、大丈夫かい君はお洒落の洋服が
 台無しだよ」

「いいのよ、ずぶ濡れでも、いつでも夢をの気持ちはまだ持ってるわ、心は貴方の歌の
 通りですよ、人生かくれんぼって、引き篭もらないでね」

「早紀子、俺なあ、昔良く行った、京都と奈良、観光客ですっかり変わってしまっただろうが
 そこと上高地、どうしてももう一度行ってみたいのだ、俺が退職したら一緒に行ってくれるか」

「貴方の心がいつでもあの時代から離れられないのは良く知っているわ、私もそうよ、
 池上線を聞くとこの年でも大泣きできるわ、歌の中に貴方がいるから」

「ありがとう、一緒に出かけようか、千雪に贈り物をするのを許してくれるか」

「もちろんよ、貴方の心は誰よりも私が知っているわ、私はこの間のxx興産の件で
 貴方が取った行動を見て感激したわ、あなたはいつでも20代の精悍な貴方に戻れる人
 だって、そんな時の貴方の燃えるような眼が好きよ、あなたは20代のままでいいのよ」

「からかうなよ、出かけるか、引き篭もりは止めて」

「♪バカな奴だよ 背中を向けて

  ちょいと人生 かくれんぼ

  意地をとおして ひとりぼち」

8月15日もこうして過ぎた、「父さんごめんな、今年は逢いに行かないから、その代わり
田舎のお墓には秋になったら必ず行く、父さんと母さんに逢いに行くから」










 

三四郎外伝「池上線」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月12日(土)21時55分42秒
返信・引用 編集済
  商社に入った頃、
化学品課に配属されて合成樹脂の成型工場という家内工業が
大田区を中心に物凄い数存在していた。

私は不思議にこれらの零細企業の親父さんたちとは上手く付き合えた、
彼らに好かれた、

次の投資を35オンスにしたいのだが18オンスで止めた方がいいか
〇君はどう思う?と真剣に聞かれたりした。

35オンスとは成型機の容量つまり大きさだ、当時は35オンスが最大のもの
であった、メーカーは長野県に集中していた、価格は当然リースと長期ローンだから
大きな機械を入れて大きな金型をつける仕事が来なければ宝の持ち腐れで効率は
極端に悪くなる、

私のような若造がその辺の事情を事細かに知っていた訳もないのに彼等は生き残りに
必死だったのだろう、熱くて夏場なんか工場の中に坐っていられないくらいの環境で
親父さん、奥さん、近所の主婦たち、正規の工員たちが入り混じって汗にまみれて
バリと呼んでいた、樹脂の通り道(フロー)の残骸をもう一度砕いて原料費を浮かせ、
とにかく機械を動かさないとたちまち工場は超高価な機械の支払いで潰れてしまう。

これらの零細成型工場の親父たちは注文主の取次ぎ会社やその関連に現金を手渡して
とにかく注文が欲しいという飢えた状態でやっと均衡を保っていた。

彼等は完成品の納入先の間に私のいた商社に入ってくれないか真剣に頼んできた、
マージンは極端に落ちるが、私のいた商社の手形ならどこの銀行でも枠外で割ってくれる
それが彼等の切実な事情だった。

当時、良く考えてみるとこのような家内工業に合成樹脂を直接売り担保も取らずに
120日の手形を受け取っていた商社の感覚も不思議なものだった、通常は私のいた
商社ではその下に二次店をつけて大手メーカーの商品を間接的に売っていたが、

どういう訳か、ダイレクトにこのような家内工業の工場に品物を入れていた、
彼等は私が集金に行くと下にも置かないような待遇をしてくれた、

一担当者の一番下っ端の私に対してでも非常に彼等は気を使った、
私のいた商社からダイレクトに原料を仕入れていますという言葉は彼らに取っての
信用であり、彼等の信用金庫を信用させる大きな効果があった。

私が当時も今でも良く解らないのは東急電鉄の路線が大井町(大井町線)からも
鎌田駅ー五反田駅(池上線)からも出ていてどれが何線か長いこと解らなかった。

旗の台、洗足、その沿線に軒先をくっつけるように民家の中に彼等の成型工場があった、
覚えているだけでも池上線、大井町線、さらに亀戸から曳船という場所にも多く工場が
あった、まるで地理がわからない私がカナちゃんから「はい、これ領収書ね、頑張ってね」
と言われて集金に出かける毎日だった、

その内の一つが例の市ヶ谷の社長の事務所だった、彼の工場は長野県にあった、ずらりと
最新鋭機を並べてうなりを上げて並んだ機械が高熱を発しながら自動成型を繰り広げて
いた、物産がこの会社に入ってくるきっかけは東レのABS樹脂だったが、私達の商社は
日石、古河、三菱、外資系のものが多かったが、自然と私はこの業界の事を覚えて行った。

社長の工場は独自の製品を自分で設計して問屋におろしていた、どこにも頼らない中間搾取に
遭わない優良企業だった、池上線の零細工場とは訳がちがっていた。

課長は積極的に市ヶ谷の事務所に行きたがった、係長と私を供に連れて通ったが
社長は私の課長が嫌いのようだった、課長の惨めなほどの諂いも社長には通用しなかった。

当時昭和50年代の初めに「池上線」という歌が良く流れていた、
西島三重子という女性が作曲し自ら歌っていた、

「♪踏み切り渡った時だわね

  待っていますと つぶやいたら

  とつぜん抱いてくれたわ

  あとから あとから 涙あふれて

  後姿さえ 見えなかったの

  池上線が走る町に 貴方は二度と来ないのね」

こんな歌が流れていた時代だった、会社でカナちゃんが
良く昼休みに鼻歌を歌っていた、

「好きなの、この歌」

「好きっていうより 女なら誰でも泣くわこの歌、泣いて泣いてしょうがない歌なのよ
 我慢出来ないほど この歌を聴くと涙が 溢れてくるの」

カナちゃんはそう言った。

「そうなの?」私が聞くと、

「何、〇君、貴方はこの歌の意味が解らないの、冷血動物!」と睨まれた、

それからは、

「カナちゃん、今日の集金は池上線だよ」

「うん、池上線に行くの? 〇君が二度とこの会社に返って来ないような
 気がして悲しいわ」

カナちゃんの言葉は的中した、私は同期会で同じ大学の同じ学部の△君と暴力沙汰を
起こしてしまった。

池上線の歌が流れる中で、私と親しかった零細工場の一つが不渡りを出した、
私は課長に怒られながら工場に案内した、課長はまだ一度もこのクラスの客に逢った事は無いのだ、

顔見知りの工員が一人工場に座っていた、
彼はジロッと私と課長を睨むように見て、すっと表に出て行った。

「この成型機は?」課長が聞く、

「機械メーカーの所有物ですよ」

「この家は?」

「銀行の根抵当がついています」

「いくら引っ掛かった」

「毎月の売り上げは少ないのですが、120日ですので月の売り上げの4倍以上です、
 大体、300万円くらいです」

「どうにもならんのか?」

「審査部で与信が500万円出ています、仕事が大手文具メーカーの仕事だったので
 無担保で与信がパスしたと聞いています」

「誰がそう言った?」

「係長です」

「君の意見は?」

「社長が可哀想だと思っています」

「何でだ」

「課長、はっきり言います、この会社の受注額の大半は文具メーカーの担当者と
 その取次ぎ商社の担当者への付け届けで利益は殆んど出ていません」

「それを知っていながら何で納入をストップしなかったのだ」

「課長、それを言ったら、ここら辺一帯の成型工場はみんな同じです、
 賄賂を強制的に要求して下請けを苦しめる発注元の悪い奴らとこの社長の
 どっちが悪人でしょうか」

「生意気な事を言うな、与信が出ているのなら、うちの課の責任にはならんな」

「課長、責任が重要ですか、ここの社長と奥さんと小さなお子さんたちはどこかへ
 逃げているのです、それがどれほど可哀想か考えて下さい」

「君に意見される事は無い、君にもミスがある」

「あります、私はここの社長に好意的でしたから」

「そんな事は言っていないだろう、まあ、あまり深刻に考えるな」

「課長、月に二度も三度も顔を合わせて工場の匂いを嗅いでいたら、あの社長の人柄は
 痛いほど伝わってきます、うちの会社に損害を与えたのは必然です、他の零細工場も
 必ず同じ事になりますよ、発注元の悪い担当者が要求するリベートでこのクラスの工場は
 みんな今に同じ事が起きるような気がします、利益が出て居ないのです」

「〇君、怒るな、もう忘れろ」

その頃、「木綿のハンカチーフ」という池上線と似たような女心を歌った歌が
大ヒットしていた、私はそんな中を無口で池上線に揺られながら毎日決まりきった
仕事を繰り返していた。

会社に帰った、

課長が部長の前でぺこぺこ頭を下げて叱られていた、「君は一度もそこに行った事が
無いのか、そんな事で管理が出来ると思っているのか」部長の声が聞こえた。

カナちゃんが、「ねえ、〇君、何があったの」

「うん、池上線の得意先が一軒つぶれたんだ」

「へえー、そうなの、で、〇君は叱られたの」

「別に、俺のような下っ端を叱ってもしょうがないからだろう」

「池上線ねー、私一度行って見たいのよ、〇君今度連れてってくれる」

「ああ、その内な」

「ね、今週の土曜日駄目かしら」「何が?」

「池上線よ、古い電車と小さな街並みを見たいわ、
 〇君は 私が待ってますと言ったら、抱きしめてくれるかしら?」

「馬鹿、課長に聞こえるよ」

カナちゃんはペロっと舌を出して、「はい、交通費、ここに判子押して」

「22歳の別れ」という曲も良く流れていた、

同期会の親睦の席で△君が私とカナちゃんに絡んで来た、

△君との間に暴力沙汰を起こした、私はメインバンクの頭取の息子の△君を殴った事などで
首同様な左遷を通告された、

カナちゃんが大声で、「〇君じゃないのよ、△君が〇君に絡んだのよ、どうしてどうして
誰も〇君を庇ってあげないの、みんな卑怯者ね、男の人って卑怯だわ、自分の出世だけみたい」

「カナちゃん、もういい、止めな」私が荷物を整理していたら、

カナちゃんがまた立ち上がって、

「みんな同期の人たち聞いて、課長さんも部長さんも聞いてください、
 〇君の暴力は正当防衛です、どうして両成敗じゃないの、そんなのないわ!」

カナちゃんの良く通る声が私達のフロアーに響いた、誰も黙って下を向いて、
何か書いていた、

私がふと見ると、
カナちゃんの眼から涙がぼとぼと机の上に落ちていた、同期の女性がカナちゃんの
肩を抱いて、ハンカチで涙を拭いた。

「課長、部長、お世話になりました、これが辞表です」

上の階からF君が駆け下りてきた、「どうして、どうして君だけが」

「F君、もういい、君、頑張れよ、俺は田舎に帰るから」

F君が一階の出口まで送ってきた、泣いていた、

カナちゃんはとうとうそのまま会えなかった。

「池上線」か、

「あとから あとから 涙あふれて

 後ろ姿さえ 見えなかったわ

 池上線が走る街に あなたは二度と来ないのね・・」

そんな事もあった、青春の門の出口で。

今でも「池上線」を聞くと思い出す。

遠い走馬灯のように。

 

三四郎外伝「裕次郎がいた頃」」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 8月 6日(日)14時47分51秒
返信・引用 編集済
  どんな人でも「青春の門」は一度はくぐるが一度切りしか通れない、戻ることは
許されない、人は青春をはちきれるばかりの若さで異性を意識し青雲の志を語り
矛盾に充ちた時間の狭間を泳ぐように通過して行き二度と帰って来れない、ノーリターンだ。

15歳から18歳だろうか、20歳になり30歳になっても、人は
まだ青春時代という宝石を神から一度だけ与えられた事には殆んど気がつかない。

気がつくのは同窓会という集まりが始まる頃、40代から50代、体はまだ元気で
18歳の時空を心は雲のように飛んで行く。

そして60歳を過ぎ、70歳という墓場への門をくぐる頃に、はっと気がつく、
青春時代の何と輝いていた事か、

あれこそ神が公平に与えてくれた人生の一瞬の宝石だったと気がつく、この頃に人は
体の衰えを知り、狂おしいほど青春の真っ只中高校時代を回顧ししばし呆然とする。

石原裕次郎という大スターがいた、
私は最盛期の人々つまり先輩達よりも少し遅れて裕次郎というスター、
彼が昭和の青春時代を代表していたのだと気がついた。

現実の人生はそんなにロマンチックなものではない、若さ溢れる頃には金が無い、
男は苦労して結婚をし子供を儲けるが、男の人生の苦労はこれでもかこれでもかと
男性を襲い続ける。

妻との確執、子供の反抗、家の中で一人ぼっち、

浅田次郎氏は「人との付き合いはしない事に決めている」とエッセイの中で
書いているが、名声をはくした浅田氏ゆえに言える人生訓であろう。

人との付き合いを絶つ、それでも仕事がらみで彼には講演が舞い込み、連載小説の
忙しさが収入と同時に孤高を保つ事は可能であろ。

一般市民はそうはいかない、
浅田次郎氏の孤独は自ら線引きして決められた自己ルールであって強制や自然に
そうなった訳では無い、だが一般人は好むと好まざるとにかかわらず金銭的な問題で
友人に囲まれてパーテイとか複数の友人を長く維持できる人はごく少数だ。

高校時代の友人たちは多かれ少なかれ金銭的な問題、肉体的な病弱問題で自然と
疎遠になっている、よしんば新しい友人や知己を東京で作れば孤独は解消されるのか。

安倍首相の友人の加計さんのように学生時代から同じクラスの生活レベルにあった友人が
今でもお元気で接触があれば、それは羨ましい事だと思う。

一般の人は、まず年を取り仕事を辞めれば、付き合いの幅は極端に狭くなる、
昔の会社に遊びに行っても迷惑がられるだけだ、「やあやあどうしてる?」は相手が
勘弁してくれと言うだろう。

地域の会合や近所や町内会での付き合いも生活レベルが同等であるという絶対条件がある、
友情に金は要らんだろうという人もいる、それは上辺しか見ていないからだ。

もしも高校時代の悪がき仲間に偶然に東京で再会し、彼も東京に住んでいる事が解ったら、
友情の復活も進むだろう、だが問題は現在その二人の経済的な背景が同じであるかどうか
は大きな問題になるだろう。

向こうが大金持ちでも敷居が高い、逆に向こうが貧者に属する生活をしていたら付き合いは
長続きしない、だから理想は浅田次郎氏の言う「私は付き合いをしない事を生活モットーと
している」これはある意味正しい発言だと思う。

人恋しい、青春が恋しく胸が疼く、久し振りに故郷を訪ねても、
三日もいると自分が異邦人であると嫌でも実感させられる、向うの土俵に入り込むのは無理だ。

私は週に一二回のベースでスポーツジムに通っている、目的は健康維持と筋力維持の為だ、
それ以外には何も目的は無い。

だが一年、二年と同じ時間帯の同じ曜日に行けば自然に言葉を交わす相手が出来てくる、
中には高齢でありながらスポーツウエアーに金を掛け、ジムの同じ時間帯の女性に積極的に
アプローチしている元気ものもいる。

見ていて応援したくなる事は無い、誰でもがある種の嫌悪感を持ってその男女の何も生まれない
会話の様子を見る、男って馬鹿な生き物だと実感する瞬間だ。

私には数名の好意的な笑顔と挨拶をくれる同性の顔見知りがいる、
名前は知らないしこちらも名乗らない、様々な話題でしばし笑いあう事もある。

だがそれ以上の進展は無いし、ましてや女性にのこのこ声をかけるほど私は厚顔無恥では
無い、女性だってそんな場所で知り合い「一線を越える」関係を望んではいないだろう。

完結すると、青春の門をはるか遠くから振り返るのは私の場合には石原裕次郎の当時の
歌だ、一人聞いて、しばし胸を熱くするだけのささやかな自慰行為だ。

「♪海峡の空を 星がひとつ飛んで

  家を出たあの子が はるばる越えた

  汐路の渦に・・

  紅い花が 紅い花が しずむ」

「♪海峡の秋を ひとり渡るかもめ

  涙ぐむあの子の さみしい顔が

  乱れた文字の・・

  残し文に 残し文に だぶる」

携帯が鳴った、

「はい」

「xx興産のxです、先日は」

「こちらこそ お世話になりました」

「ところで〇社長 ひょんな事からお宅の手形が上がって来たんだ
 わしらはそれで何かをしようとは思って無いが 今のところ一枚だが
 心当たりは?額面はxx千万円、期日は一ヶ月先の今日になっている。
 振り出しはお宅で 裏書が二社、聞いた事が無い会社だ。

 一応、あんたには義理もあるし、手形は返しておこうと思うんだが
 こっちに来るついでがあったら寄ってくれないか、うちのKYに逢ってくれればわかる」

「ほう、それ手に入れたのはどこからですか」

「M会の下の街金だ」

「何でお宅に」

「割ってくれって持ちこんで来た」

「M会の街金がお宅に手形を割ってくれって? おかしいですね彼等自分で出来るでしょう」

「さあそれは解らん」

「とにかく連絡して貰ってありがとうございました、あ、そうそう
 裏書の二社の名前は解りますか?」

「それが最初はうちの街金なんだ、俺は知らねえ話だったが、今日チラッと見てな
 〇社長の会社だったので俺が取り上げた」

「Sはどうしました」

「どこへ帰ったかは知らんが、目隠しして二つほど県を越えたはずれの町外れに
 置いて帰ったそうだ、体は元気だよ、この事をしゃべったら・・・とクンロクは
 入れてある」

「そうですか、ところで頭、私もこの会社閉めようと思っています、上には
 許可をもらいに行くつもりです、私ももう疲れましたよ」

「羨ましいぜ、現役辞めてのんびりか、俺もそうなりてえもんだ」

「皮肉ですかね、参考の為にその手形番号を教えてくれませんか」

「おう、ちょっと待ってくれ、・・・TGxxxxKだ」

「うちの番号にはありませんね、偽造です、だが裏書の善意の第三者ってのが
 ややこしいですね、その手形Yさんところの昇さんに預けてくれませんか付き合いある
 のでしょう」

「無い事もねえが、うちの上部団体だから呼びつけるわけにもいかんし、〇社長、
 この手形渡すから自分で昇の兄貴に届けたらどうです」

「じゃ、そのうち」

もうそんな事やってる気力は無い、青春のあの時、あの女と一緒になったら
今頃私はどうしているだろうか、つまらない妄想がまたよぎった。

夜はどこで飯食おうか、孤独も楽だが、こうまで孤独じゃ行くところもなくなってしまう、

「♪海峡の月が 俺の眉にかかる

  生きてくれあの子よ 死ぬなと祈る

  連絡線の・・

  黒い影も 黒い影も ゆれて」

重い腰を上げて駐車場に行く、この頃肉が多い、迷うが結局ステーキになる、
この年寄りがステーキ食って何する気だ。

青春の門の向うの石原裕次郎、

音楽はそうだこんな時には裕次郎だ、俺のクラシックだ、俺のモーツアルトだ。

「♪抱いてやりたい 燃えてもみたい

  それさえ出来ない 恋なのに

  すこし逢えぬと すぐ淋しがる

  君を見てると いとしくて

  今日も云えない さよならが」

「♪こんな切ない 恋になるなら

  君には逢いたく なかったぜ

  風に吹かれる 黒髪までが

  過ぎたおもいで 誘う夜

  俺はいまさら くやむのさ」


「♪君の涙を 見るのがつらい

  だから黙って 別れるが

  花の匂いの 可愛い君を

  忘れるものか いつまでも

  遠く幸せ みているぜ」

裕次郎と白のダスターコート、これこそ青春の門の向うにあった現実の青春だった。






 

三四郎外伝「銭」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月26日(水)20時17分25秒
返信・引用
  F君の田舎で三日間田圃の香りを満喫した、
四日目の昼過ぎに私の携帯が鳴った。

「はい」

「〇社長ですか?」

「そうですが」

「xx興産のものです、今かしらに電話を代わります」

「〇社長、しばらく、こないだ奥さんがうちに見えて、
 仔細は聞いた、野郎を突き止めた、そこで相談がある明日逢えると良いんだが」

「そうですか、じゃ明日夕方以降になりますがそれでよろしいでしょうか」

「空港から真っ直ぐ来てくれるかい」

「いや、会社に寄って車で行きます、かしらは何時だったらよろしいですか」

「俺か、ちょっと待ってくれ」

何か電話の横で誰かに何かを聞いているようだった、

「そうさな、仕度もあるしケジメもあるんで、夜の九時頃に事務所に来れるかい」

「伺います若い士に私が行く事を伝達して置いてください」

「わかった」

電話は切れた。

「F君、Sが捕まったらしい、明日3時半の飛行機で東京に帰る」

「そうか、やっぱりS君だったか、残念だ、俺からもお詫びをする」

「いや、君には何も責任は無いよ、今夜は俺、ホテルで食事をする
 これから宮崎に帰るけどいいか」

「車で送っていくよ」

「いや、あの列車の方が早いよ」

「まあ、そう言うな、道々話くらいさせてくれ」

「すまんな」

翌日私は東京に帰った、xx興産のかしらとはそんなに親しくは無い、
人柄も良くはわからない、ただ昔Yさんの下にいた頃に何回か顔を見知っている程度だ、
そういえば、誰かもう一人入れて彼と飯を食った記憶がある、道で出会っても気がつかない
くらいの薄い関係だ、ただ彼もZ会の傘下にあるのでその点は信用できる。

会社に帰って、早紀子にお礼を言って、かいつまんで今夜xx興産と逢う話をした、

「〇ちゃん、大丈夫なの、なんか怖い人たちで私震えたわ、大丈夫なの」

「大丈夫でなくてもこれしか方法は無いんだ、彼等で無いとこの問題は解決しなかった」

「俺、一旦家に帰ってシャワーを浴びて着替えてからもう一回会社に来る、車で行く」

「どうして車で行くの、タクシーの方が」

「いや、もし彼等が金の回収まで行なっていたら自家用車で無いと危なくて
 帰ってこれない」

「向こうがお金を回収したって言ったの」

「いいや、電話ではそんな具体的な話は彼等はしないよ、俺の勘だよ」

「気をつけてね」

私は家に帰ってシャワーを浴びて下着から全部着替えてからxx興産に電話を入れた、

「〇と申します、かしらはいらっしゃいますか?」

「お待ち下さい」

5分くらい待たされてから、「〇社長かい」彼が電話に出た。

「9時の約束ですが、1時間くらい早く行ってもいいでしょうか、
 時間が遅くなるほど危ないので」

彼は笑った、

「そうだな、じゃ8時でどうだ、俺には寝起きだけど」

「すみません、それじゃ8時にお宅の駐車場に車を入れます、若い士にそう言って下さい」

「わかった」

私は出来るだけ頑丈な車がいいと思って目立つけど会社の外車にした。

7時40分くらいに彼の事務所に着いた、車を入れようとすると中から若い士が
飛び出して来た。

名刺を渡すとすぐに誘導して玄関に案内してくれた。

「すみません、その名刺を返してくれませんか、すみませんね」

若い士は素直に私の名刺を両手で捧げて返してくれた、
「ちょっと早かったけどいいでしょうか」

若い士は何も言わないで二階へ案内してくれた、

「失礼します」私は奥の応接室に通された、一人でしばらく待たされた。

8時ちょっとすぎにかしらが二人連れて入ってきた、

「おう、〇社長、変わりませんね、益々若くなったみたいで羨ましいですよ」

「本当にしばらくでございます、この度はお世話をかけて申し訳ございません、
 有り難いと感謝しております」

「それでな」

彼がタバコをくわえた、後ろの一人がライターの火を差し出した、

ふうーっと、煙を吐き出して、

「奥さん、美人ですね、羨ましいですよ、それで、頼まれた件、片付けましたので」

「Sですか」

「そうですね、奴の寝込みを襲ったが、家捜ししてもこれだけしか現金は無かった、
 他に通帳のようなものは無かったな、念の為にSにはウチの事務所に来てもらっている」

そう言って、紙袋に入ったものをどしんと机に置いた、

「6千万ちょっとあった」

「それだけでしたか?」

「他に奴を締めて、マンションを買った事を突き止めた、奴の女が住んでいるようだ、
 幸い名義はSのままだったので、昨日登記書類を一緒に銀行までとりに行ってきた」

「そうでしたか、女はあの銀座の」

「さあ、俺等はそこまでは知らんが、いいマンションだ、億じゃ買えないだろうよ」

「そうでしたか、お世話をかけました」

「そいでな、まずこの現金だけど、6千3百いくらあった、
 お宅に3千でいいかい」

「まあしょうが無いでしょう、いいです」

「じゃ、先にこれを」

若い士がもうひとつの紙袋に3千万を取り分けた、

「それでな、あのマンションだけど叩き売っても今なら相当な金になる、
 だけどそれじゃ時間がかかる、どうだ〇社長、相談だがよ、あのマンション俺が買おう」

「いくらですか」

「いくらなら売る?」

「うちはSに二億以上やられているのです、3千じゃ会社の資金繰りが回りません、
 できれば7千と言いたいのですが」

「5千でどうだ」

「かしら、それはちょっと叩き過ぎでしょう」

「うちも人と銭を使っているんだ、経費って奴だよ」

「5千で手を打て、それなら今日全部が片がつく」

「6千5百は駄目ですか」

「この話、Yの叔父貴とか三代目には言ってないだろうな」

「誰にも言っていませんが、向こうが勝手にかぎつけたらそれに私は責任は取れませんけど」

「これからも上に話さないと約束してくれるか」

「金さえ回収できれば、私も言いたい話じゃありませんので黙っています」

「その言葉、呑むなよ、頼むぜ」

「私は言いません、向こうが勝手にかぎつけたらその責任は取れませんが」

「それは俺等が上手くやる」

「Sは傷つけていませんね」

「ちょっとは弾みでしょうがないだろう、奴もパクられるより痛いくらいは我慢するだろうよ」

「逢えますか」

「いや、止めた方がいい、〇社長が顔を見せると話がややこしくなる」

「わかりました、それでマンションの方は」

「6千で手打ちだ」

「あわせて9千か、まあ会社の資金繰りが一息つけます、いいですそれで」

「じゃ、これで」

紙袋が膨らんだ、

「〇社長、俺はこれから出かける、ここで分かれよう」

「かしら、二人ばかり駐車場まで護衛につけてくれませんか」

「何で?」

「いや、いきなり後ろからバットで殴られて金盗られたら困りますので」

彼は唇の端を歪めて、苦笑いした。

「用心がいいな」

「臆病者ですので」

結局彼のうしろに立っていた屈強な二人が私の後ろと前を歩いて車のところまで
無事に着いた、トランクを閉めて、「ありがとうございました」と頭を下げた。

「ご苦労さまでした」と二人が私に頭を下げてくれた。

私はアクセルを踏み込んで路地から路地を抜けて一気に事務所から離れた、

後ろからバットはあのかしらを指したつもりだった、図星だったか。

反対方向に車を走らせ、またカーブを描いて、途中の駐車場に入って裏から抜けた、

交番の向かいに一旦止めて、バックミラーをじっと見ていた、

あの事務所から同じ車はつけて来ていない、さらに10分そこに止まっていた、
交番から一人警官がこちらを見ながら道を渡ろうとしていた、

私は静かに車を発進させて、裏から裏道を抜けて、一気に加速して会社の向かい側の
道路に車を止めて、紙袋を出して、走るように、会社のビルの裏口からエレベータの
あるホールを抜けて、階段を一階上がって二階からエレベーターに乗った、

会社にはまだ全員が残っていた、金庫を開けさせて紙袋を入れた、
「疲れたよ」

「ああ良かったわ」

「明日銀行に電話して金を取りに来て貰ってくれ」

「いくら戻ったの」

「9千だ」

「半分以下ね・・・」

「しょうが無いよ、俺達素人じゃ一銭も取り返せなかった、法的な方法でも
 相手に気づかれて隠されたらどうにもならん、第一手続きしてたらマンションも
 名義を二人くらい経由して手が出せなくなる、これが一番の方法だったのだ」

「早紀子、心配かけたね、すまなかった、俺さあ、思うんだけど、
 もう年だし、これを契機に会社を誰かに売るか、クローズしようと思うんだ」

「ここまで大きくして会社を投げ出すの」

「今回のS君がいい警告だ、次に誰にしてももっと大きな損害が出る可能性がある、
 悪い事をされなくてもビジネス上の失敗もある、F君がいないのなら、もう俺一人じゃ
 支えきれない、相談役の睨みもきかないし、引き時だと思うんだ、同意してくれないか」

「残念だわ、私はこの会社が好きだったし、仕事も楽しかったわ、Dさんとか、いろんな
 お客様もみんな良い人ばっかりだったし、未練だわ」

「早紀子、明日でも二人で映画でも見に行こうか」

「イチゴ白書の再来をしようよ、覚えてるだろう学生時代を
 二人で思い切り若くなろうよ」

「♪いつか君と行った 映画がまた来た

  授業を抜け出して 二人で出かけた

  哀しい場面では 涙ぐんでた

  素直な横顔が 今も恋しい

  雨に破れかけた 街角のポスターに

  過ぎ去った昔が 鮮やかによみがえる

  君も見るだろうか 「いちご白書」を

  二人だけのメモリー どこかでもう一度」

「♪僕は無精ひげと 髪を伸ばして

  学生集会へも 時々でかけた

  就職が決まって 髪を切ってきた時

  もう若くないさと 君に云い訳したね

  君も見るだろうか「いちご白書」を

  二人だけのメモリー どこかでもう一度」

銭だなあ、この世は、人は銭の為に危うい事に手を出し

人は銭の為に生きて 命もかける。

S君も銭でつまづいた、私の油断が銭という企業の油を奪われた、

人は年と戦い、銭と戦って土に返る、

川は流れる、あの歌詞の通りの人生だった。

  
 

三四郎外伝「一献歌」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月26日(水)00時07分5秒
返信・引用 編集済
  S君に社長を譲ってからしばらくして、早紀子が

「貴方、会社のお金が漏れている感じ、どうしても計算が合わないの」

「どうした、資金繰りが悪くなったのか」

「悪化したわ、目にみえて、理由がわからないの」

「うん」

「どうしたの」

「売り上げは?」

「どんどん下がっているわ」

「客の数は」

「減ったみたい、貴方がいた頃よりも半分くらいに」

「うん」

「どうしたらいいかしら」

「新しい取引先にこれまで知らない小さな商社は無いか、
 それも 複数あるはずだ、明日すぐ調べてくれ」

何か淋しくなってF君に電話をした、話は弾んだ、
「宮崎に遊びに行ってもいいか」

「歓迎するよ、田舎で何も出来ないが」

「君がいるだろう」

「いるよ」

「それで十分だ、明日行ってもいいか、午後3時頃に着く便に乗る、
 ホテルを取ってくれ、Rホテルがいい」

「わかった、空港に迎えに行くよ」

「いいよ、宮崎の我武者羅に速度の早い列車に乗ってみたい、
 空港から宮崎市に行き、チェックインしてから君の町へまたぶっ飛ばす宮崎の
 電車に乗って君の町の駅に行く、気晴らしになる」

「わかった、じゃあ、夕方だな、宮崎で列車に乗るときに電話をくれ、
 駅にいるから」

「じゃ」

私は午後1時半の宮崎行きに乗った、国際線と違って席が小さくて窮屈だったが、
1時間ちょっとの旅は快適だった、機は大きく旋回して宮崎空港に着陸した、ここは
ローカルの国際線でもあるようだ、けばけばしい塗装の外国機が駐機してあった、
空港ロビーには英語のアナウンスが流れて、羽田とは違った雰囲気でリラックスできた。

確かに宮崎県の列車はぶっ飛ばす、脱線するんじゃないかと思うほど、身を震わせて
ガアガアと煩く音を立てて山際の木々が列車にザアーっとこすりながら走る。

ローカルの駅にはF君が麦わら帽子の妙な格好で軽トラックで私を待っていた。

「よう、すっかり田舎のおっさんになったな」

「田舎の爺さんだよ、どうだこの格好は」

「うん、いいよ、ストレスなんかどこにも無い感じがいいね」

「今回は急だったな、どうした?」

夜、F君の馴染の店らしい田舎らしく蚊が足元を飛び回る店に入った、
奥の部屋が取ってある、F君が仲居さんについて私を促した。

広い十畳以上もありそうな部屋に私達二人、エアコンは電気料を始末しているのか
弱弱しくて蒸し暑い。

「よく、来てくれた、まず一献だ」

「いざ我が友よ まず一献だな」

「嬉しいよ〇君が俺の目の前にいるなんて、ところでどうした、何か事情がありそうだな」

「うん、どうも会社の金がおかしいんだ」

「S君か?」

「わからん、だが人為的なものだと感じた」

「どのくらいやられた」

「x億は確実だ」

「x億だと・・どうやって」

「まだわからん、だが金を抜くには定石がある、いまそれを調べている
 いずれにしてももし盗られたものなら返っては来ないだろう、俺も年貢の納め時だ」

「三四郎さん達が出張ってくるだろう」

「だろうな、直接じゃなくても」

「うん」

「だがな、盗った相手が死んでも金は戻らん、手口の見当はついている」

「君も無事じゃすまんだろう」

「まさか俺が指詰めしてもな、格好がつかんよ、そんな問題じゃない、
 見つけたら正攻法で告訴する」

「戻るか金は」

「戻らんだろう、もしギャンブルかなんかに全部使っていたら
 奴が横領で入ってもこっちは嬉しくもなんとも無い、俺のミスだ見逃したのは」

「まあ、飲もう」

「よし、忘れて俺も百姓になるか」

「♪男の酒の 嬉しさは

  たちまち通う 意気と熱

  人生山河 険しくも

  君 盃を挙げ給え

  いざ 我が友よまず一献」

「♪秋月影を 踏むもよし

  春散る花に 酔うもよし

  あはれを知るは 英雄ぞ

  君 盃を挙げ給え

  いざ 我が友よまず一献」

「いいな、明治の気骨は」

「いいよ明治の気骨は」

「♪心猛くも 鬼神ならず

  人と生まれて 情けはあれど

  母を見捨てて 波越えて行く

  友よ 兄等(ケイラ)よ

  いつまた 逢わん」

「いいな、大日本帝国が輝いていた頃は、いいな、
 俺は今の日本の中途半端がたまらなく嫌だ」

「ほうー、F君、俺と同じ事を言ってくれたな、俺もそうだよ
 明治の日本には気骨があった、熱があった、男子の本懐があったよ」

「なあ〇くん、俺達生まれ変わったら、明治から大正時代に生まれ変わりたいな」

「そうだな、もっとも時代がゆったりして大衆は何の心配も無く、国家は強靭で
 皇軍は無敵だった」

「〇君、明日は俺の畑と田圃に行って見ないか、農業用の服と長靴は俺が用意する」

「そうだな、田圃のあぜ道を歩くのも俺の父と母に手を引かれて両親が上海ブルース
 を歌って、父が俺を肩車して一面の広い稲の匂いに包まれた頃を思い出すよ」

「そうか君の父上は軍人だったな」

「いや、俺の父は軍属だ、階級は貰っていたが、陸軍戦闘隊のエンジン整備士だった」

「そうそう君が靖国で言ってたな、どんな飛行機を整備されてたんだ」

「母から聞いたのだけど、両親は上海で結婚して陸軍の部隊が南方へ進軍するのに
 あわせて父はビルマまで行ったそうだ、そこで総崩れの悲劇を味わったらしい」

「飛行機は」

「母が言っていたのは、隼と飛燕だと」

「そうか、エンジンの音轟々と・・だな」

「負けなきゃな、戦争は負けたら全てを失う」

早紀子から電話が入った、

「貴方、調べたら、得意先に四つほど聞いた事の無い商社があるわ」

「そうか、良く調べた、明日その四つの会社のの登記を洗ってくれ、
 代表や役員は関係の無い奴を入れているだろうから、登記された会社の住所を
 当たってくれ、xx興産という金貸しと調査を専門にしているところがある、
 俺の家の右上の引き出しの中の名刺ファイルにxx興産の名詞があるはずだ、
 俺の妻だと言って君がこっそり会社を抜け出してその会社の名前と資料をそこに
 持ち込め、まずは誰が犯人か突き止める」

「わかったわ、恐い人たちじゃ無いでしょうね」

「出方を間違えると恐い人たちだよ、大丈夫だ俺の女房だと名乗れ」

「やってみます、ところで今月の資金が足りないのですけど」

「それは後回しだ、まずxx興産に行け、奴らは早い、答えが直ぐ出る、
 場合によったら回収までやつ等がやってくれる、取り半だけどな」

「取り半って?」

「回収した金額の半分は彼等が取るという事だ」

「そんな高すぎるわ」

「馬鹿、そんな事言ってられるか、明日朝すぐに行け俺が今夜そこの「頭」に電話入れておく」

「〇君、大変だな、いいのかこっちでのんびりしてても」

「俺達には何にも出来ないよ、プロに任せる方が結局早い、俺は明日はみんな忘れて
 親父の背中におんぶされているつもりで田圃のあぜ道を君と歩きたい、それしか今は
 考えないことにしたよ」

「人生山河 険しくも

 君 盃を挙げたまえ

 いざ 我が友よ、まず一献」
 

ヘッドライト

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月20日(木)16時37分0秒
返信・引用
  私は徳久広治という作曲家兼歌手の男性が好きである、

理由は彼のめがねをかけてちょっと上を見るしぐさと顔が
私の若き日に青春の血をかけて裏町を走ったあの男と似ているからだ。

徳久さんには何の関係も無いのだが、
私はこの人をTVで拝見するたびに私の20代の頃のある一時期に
強い思い出が飛んでゆく。

どこから見てもそっくりだ、懐かしいなあ、徳久氏とあの男を重ねながら
私はいつも画面を見つめる。

徳久広治氏の作曲した多くの歌謡曲の中で私は新沼健二が歌った「ヘッドライト」
という歌が好きだ、ここには書ききれないほどの思い出が徳久氏の顔と曲に溢れる。

その男は私が23-4歳の頃に出会った、商社の得意先の一つでその社長が彼に似ている、
男は特別に私を可愛がってくれた、人生を教えてくれた、男とは何かを教えてくれた。

今でも忘れたことは無い、
田舎から東京に出てきて曲がりなりにもある大学を卒業しあろうことが当時一流と
言われた繊維系の大商社に入社した。

勤務先は神戸支店、ここで始めて女を知ってそして別れの涙を知った、
東京本社に返されて私は合成樹脂の成型工場と代理店を営んでいた旧社長に拾われた、

ここでもその男との商売を通じた交流は続いた、
酒もタバコも嘘までもみんなその男との交流で知った、その経験と場数が東京の
ケンさんや昇さんとの付き合いにも役立った、三四郎さんという大きな後ろ盾を得て
私は年の割りにさまざまな世界の大物といわれる人々と面識を持った、

表の社会、裏の社会、中間のグレーの社会、みんな私にはいい人たちだった、

月日が流れて世の中も変わった、肉親はみな先立った、
旧社長も逝かれた、恋もした遊びもした、20代で外車に乗ることも知った、

私はどんな人にも誠意を尽くして向き合った、決して全員が私の味方では無かったが、
生きる術を身につけていく内にいつの間にか私は高齢者に属する晩年の枯葉になっていた。

だがあの男との別れは今でも鮮明に覚えている、
駅のホーム、照れ隠しに私を見ない男、連れの女性に私は出来るだけの気持ちを手渡した、

男が私に残した一言は汽車に乗る間際に「すまねえ」それだけだった。

いいんだ、時間は流れるものだ、一つの記憶は汚れていないほどいい、

「♪北へ走ろう お前と二人

  北は雪どけごろだろう

  春もあるだろう

  そんなに泣くなよ

  今夜からは二人だけだよ

  ふり向けばつらいことばかりの

  東京は捨てたよ

  夜霧に揺れてる 悲しみのヘッドライト」

「♪夜が明けたら ドライブインで

  からだあたためてくれる

  お茶を飲もうよ

  もたれて眠れよ

  俺に遠慮なんかするなよ

  もう二度と戻らない町には

  未練など 持つなよ

  二人でたずねる しあわせのヘッドライト」

考えてみれば人生は短かった、早すぎた
どこかで止まってくれて 考える時間をくれたらよさそうなのに

人生は大河のように滔々と流れて二度と戻らない、残されるのは年齢という
残酷な切り傷だけだ。

あの男、どうしたろうか、連れの女性は一度私の会社の近くまで出てきて
電話をくれたことがあった、やつれて見えた。

それだけで男の現在が想像できた、
何も言わない女、私は黙って出来るだけの紙袋を押し付けるように手渡した。

いつまでもいつまでも私に体を半分に折るほどにお辞儀をしていた女、
それが最後の出会いだった。

徳久氏に重ねるのは失礼だが、徳久氏をテレビで見るたびに私はあの男を重ねてみている、
それで私は徳久氏のファンになった、もう40年も昔のことだが私には忘れられない
切り取った画面の記憶だった。


「北へ走ろう お前と二人

 北は雪どけごろだろう

 春もあるだろう

 そんなに泣くなよ・・・」

 

三四郎外伝「千雪」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月 9日(日)21時46分26秒
返信・引用 編集済
  F君が帰郷してから心にぽっかり穴が開いた、
由とじゃれていてもどこか虚しい。

「どうしたの〇ちゃん、誰の事を考えているの?」由が長い髪をかきあげながら
首をかしげる。

「いや例のF君が今日宮崎に帰っていったんだ、相談役も亡くなったし
 なんだかなあ、人生の道路の先が通行止めになっているような」

「考えたって仕方ないでしょう、みんな別れは来るんだから、貴方と私もよね・・」

私は思い立って翌日銀行に残っていた私の自由になるお金の1千万円を全部現金で下ろした、
これで私はすっかかんになった、後は車を誰かに売るか。
家の戸棚に隠して二日後に早紀子に「ちょっと田舎の家のことで帰ってくるがいいか?」

「田舎の家?千雪さんが住んでいらっしゃるんでしょう、どうしたの?」

「あの家、君に相続権があるんだ、要するに相続は法律的な婚姻以外では対象にならない
 から、君が放棄しない限り、君はいつでも千雪に出て行けと要求する事が出来るんだ」

「私が千雪さんを追い出す? 馬鹿言わないでよ、私がそんな意地悪をする訳が無いでしょう」

「いや意地悪じゃなくって、法律的な君の持っている権利なんだ」

「私はいいわ、ここのマンションもあるし、貴方の定期とか会社とかの相続があれば
 それ以上の事は要らないわ、それより貴方今すぐ死ぬみたいな事言わないでね」

「いや、今すぐじゃなくても、人間は必ず死ぬんだ、それに男はまず確実に女より先に
 死ぬ、これは人間として生まれた定めだ、だから君とその事を話しあっておかないと」

「嫌だわ、そんな金の亡者みたいなバトルは、私は千雪さんとは助け合って生きて行くわ」

「本当かい、そうなのか」

「そうよ、貴方は妻の私の気持ちも性格もまだ解らないの?」

「いや、君はお嬢様育ちで金を追っかけまわすタイプじゃないのは知っている、
 だけど法律的なことははっきりさせておかないと」

「バッカみたい、貴方は何を納まりかえってそんな善人ぶった事いうの?」

「そうじゃない、君に悪いと思っているからだ」

「私に悪いって思うなら、そんな下らない馬鹿な事を言わないでちょうだい
 私は貴方と逢った頃と何も変わっていないわ、あの頃の早紀子のままよ、千雪さんとは
 ずっといいお友達だったの知っているでしょう」

「ありがとう早紀子、ありがとう」

その翌日、そっと戸棚に隠した1千万円を鞄に詰めて空港に向った。

千雪はいつもの顔でいつもの軽自動車で迎えに来た、おんなじ狸のような丸い顔で。

「暑いな、元気にしてたか、淋しかったか」

「暑いわ」

「淋しかったかって聞いているだろう」

「今日は暑いわ」

「何だよ、その態度」

家についたら、千雪が泣きながら私に抱きついて来た、

「淋しかったよ、私はこんな大きな家なんて要らないし、第一淋しすぎるわ」

二人で町まで食事に出かけた、

すき焼きを食べて、「千雪、カラオケ行こうか」

「カラオケ?」

「うん、俺の高校時代の同級生が自宅を改造してカラオケ居酒屋をやっている
 本当は自分の趣味の為だと思うけど」

「仲良かったのその人」

「いいや、顔も名前も良く知っているが、高校時代には彼と触れ合った記憶が無いんだ
 きっと農業科にいたのかもしれない」

「それで今はその人とのお付き合いはあるの」

「別に無い、でも顔を出せば解る間柄だ」

「どうしよう、田舎だからほかに〇ちゃんが楽しめるところは無いから、行きましょうか」

私達は軽自動車で彼の家の横に増築したカラオケ居酒屋に向った、
彼の名前が店の名前になっている。

しばらく話をした、
彼は大歓迎してくれた、「どうしたんじゃ、お前、東京におるんじゃろが」

「家はこっちだから里帰りだよ」

「そうか、奥さんか」

「うん」

二人でボックス席に座って、酒を頼んだ、

千雪の機嫌も大分直ってきた。

「千雪、俺が君の為に歌おうか」「うちの為に?」「そうだ」

友人を呼んで、ギターを借りた、「ほかのお客さんに聞いてくれんか、ギターで
歌っても迷惑じゃないかどうか」「大丈夫、わしがええ言うたら客は問題なんかないんで」

「♪ハアー 島で育てば

  娘 十六 恋ごころ

  人目忍んで

  主とひと夜の 仇なさけ」

「♪ハアー 沖は荒海

  吹いた東風が 別れ風

  主は船乗り

  今じゃ帰らぬ 波の底」

「♪ハアー 主は寒かろ

  夜ごと夜ごとの 波まくら

  雪はちらほら

  泣いて夜明かす

  磯千鳥」

「いい曲だろう、歌の内容はよう解らんが、曲は綺麗ないい曲だよ」

「始めて聞いたわ、いい曲ね、なんだか淋しそうな歌」

「この歌はな、島の娘と言う昭和8年の歌だが後に石川さゆりさんも歌っている、主というのは
 海軍の兵隊さんかも知れんなあ、だけどあの頃の海軍は無敵なはずだ、海軍の兵隊さんの
 戦死を思わせるような歌詞はどうにも解せんが、それはそうと、ところで千雪」

「何」

「俺が好きか?」思い切り気障なことをささやいた。

「好きよ〇ちゃんの事、東京で出会った頃から、〇ちゃんにピンクのオーバーを
 買ってもらった頃から大好きよ」

「そうか、安心した」

「千雪、念の為じゃ、もしも俺が先にぼっくり死んだらな、
 早紀子と相談してくれ、彼女はいい人だ、この家も君に渡すことを承知している」

「・・・」

「反対にな、千雪、お前が先に逝くようなときには俺が一緒に逝ってやる、
 お前は方向が解らんからあの世で迷ったらいかん、俺が一緒に逝く」

「・・・」

「わかったか千雪、苦労をかけたが、俺ももう65になる、お前はまだ40代にしか
 見えんが、俺は65の老人だ、大事なことは言い残して置かないといけんから
 お前に言っておく、いいか」

「・・・」

「千雪、俺達はもうあの頃のように若くは無いんだ、人間は60を過ぎたら70も80も
 同じ事だ、俺のいう事をしっかり聞けよ、もし俺が先に死んだら、この家から逃げ出そう
 なんて考えるなよ、いいか、これは嘘じゃない、早紀子はお前と仲良く一緒に過ごそうと
 言ってくれている、わかったか、この家と土地はお前のものだ、今名義を変えると
 贈与になる、俺が死んでも相続の権利はお前には発生しないのだ、だから俺は早紀子と
 しっかり話をつけてある、遠慮は要らん、早紀子に相談してくれ」

「聞きたくない、〇ちゃんが死ぬなんて」

「馬鹿、俺はもうあの頃の20代の俺じゃないんだ、聞き分けてやんない」

「・・・」

その夜、私はバックに入れた1千万円を千雪に押し付けた、「これは財産とは言えんくらいの
ものだが、何かの足しにしてくれ、家を維持するには金がかかる、取っておけ」

千雪は黙っていた、また大きな涙がぽたぽたと畳の上に落ちた、

「お前の泣き癖は変わらんな、涙の量も」

「ハアー島で育てば

 娘十六 恋ごころ

 人目忍んで 主とひと夜の

 仇なさけ」

翌日は千雪の笑顔が戻った、「うちは〇ちゃんの子供が欲しかったよ」

「俺は種なしかもしれんな」

「今からじゃ駄目でしょうね」「馬鹿、母体が持たん」

「ハアー沖は荒海

 吹いた東風が わかれ風」










 

三四郎外伝「すねるつもりは無いけれど」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月 8日(土)16時25分14秒
返信・引用
  F君が明日は宮崎に帰る、
一抹の淋しさが去来する「また逢えるかな」「そうだなお互いに生きていればな」
「そうだな、生きていればな」

「〇君、君とは忘れ難い想い出が身体中に染み付いている、君という人間は
 いつも直球勝負だ、この間の相談役へのお金の問題でも気に触ったら人前でも
 構わず思い切り怒る、そんな君が俺は実は大好きなんだ、下手に黙って胸にしまわれる
 よりも君の直球勝負の生き方は好きだし魅力的だ、別れるのは辛いよいつだって」

「ありがとう、俺も後先考えずにカッとなる癖が抜けない、反省している。
 君は仕事を離れて人生淋しくないか、あの相談役でさえ最後まで現役でいたいと
 ベッドの上で何度も言われた、男ってそういう生き物だと思うんだ」

「仕事を離れて淋しいかと問われれば、はっきり言って抜け殻だよ、
 男は仕事を離れるととたんに気力も体力も大いに変調を来たす生き物だ、
 君も退任を決めたそうだが、きっとそれを実感すると思うよ」

「男は戦い続けるか、仕事をやり続けるかしないと駄目になる、良く解っているつもりだ
 だけど体力にも頭脳にも賞味の限界がある、酒を飲む力も弱くなる、現役とはそれが全て
 揃ってやっと現役を張れるものだと気がついている」

「で、〇君、君はこれからどうするんだ」

「どうするって言われても・・どうにもならんよ」

「俺は宮崎の田舎で田圃に立つとき、最初は大自然と子供の頃からの懐かしい風景に
 感動もした、だがな、東京の水を知ったら田舎なんてたった三日しか持たないよ、
 完全に異邦人だよ、今では田圃の真ん中に立ってだんだん馬鹿になっていく自分が
 解るんだ」

「だんだん馬鹿になるか・・男の人生って機械と同じだ、動いている間だけの人生だ
 忙しさを離れたら 確かに馬鹿になるな、今に免許証の返納を進言されるときが来る」

「お互い、長のわずらいで家族に迷惑はかけたくないよな」

「俺もそう思っている、元気である日ぽっくり行く、頓死という奴だな、これは
 そう望まなくても大抵の男はそういう死に方をするよ、ほら街を走っている救急車
 があるだろう、あれはな、病院に着くたったの20分間くらいの間に7割以上の人は
 救急車の中で死んでいるらしいんだ」

「それは俺も聞いた、3割の助かった人も完全復活する人はさらにごく一部の運のいい
 人だけで大抵は重篤な後遺症が残って脳か腎臓をやられて今度はそっちで危なくなる
 そうだ、いまのは心臓で運ばれる人の場合だけどな、脳、腎臓、心臓って繫がっていて
 どれかが助かっても後の二つが追い討ちをかけて結局はアウトだって病院の親しい先生に
 聞いたよ、人生って一体何なんだろうな、生きるってまず金に苦しみ、ほんのわずかな
 幸を短い時間手にして、そして・・まあ考えてもしょうが無いな」

翌日、F君を羽田まで送った、

「命のある限り生きろよ」

「君もな、これでもう逢えないかも知れないな」

「うん、今度は何となくそんな気がする、相談役の事があったからかも知れないが」

「俺は田圃の真ん中に突っ立って空を見上げて馬鹿になる、君は東京で暮らすのか」

「わからん、言っただろう俺には手を引いて三途の川を渡ってやらなければならない
 方向音痴の人がいるって」

「それが最後の仕事か」

「そうなるかもな」

「早紀子さんはどうするんだ」

「すまないと思っている、彼女とは会社創世記の激動の時を過ごした戦友だからな」

「〇君、そろそろ時間だ、ここでお別れだ」

「お別れ公衆電話のような台詞を言うなよ、ここでお別れだなF君」

「〇君」

「ウン?」

「握手じゃなくって、抱き合ってもいいか」

搭乗口に消えるF君、40年以上前に東京駅の夜行寝台列車の別れはまた逢おうという
別れだった、今度は本当に最後の別れかも知れない、そんな気がした。

私は展望台に駆け上がってF君の乗る飛行機が滑走路に向うのを見た、
飛行機は何事も無いように急角度で青い大空に消えて行く、白い機体がキラキラと
光ってやがて見えなくなった。

私は呆けたように、その場に立ち竦んでいた、帰るのを忘れたように。

「泣けた泣けた こらえきれずに泣けたっけ」

自然と口をついて出た、

帰りの車の中でつい涙っぽくなる自分の心が折れそうになった、

「♪命預けます

  流れ流れて 東京は

  やっと開いた 花一つ

  こんな女でよかったら

  命預けます」

「♪命預けます

  嘘もつきます 生きるため

  酒も飲みます 生きるため

  すねるつもりは ないけれど

  こんな女でよかったら

  命預けます」

「♪命預けます

  雨の降る夜は 雨に泣き

  風の吹く日は 風に泣き

  いつか涙も 枯れ果てた

  こんな女でよかったら

  命預けます」

私は車のハンドルをまた由の家の方向に向けた、本当に懲りない男だな俺は、

携帯が鳴った、F君が到着したかとボタンを押した、

相手はHさんだった、「〇社長、こんにちは、久し振りですお時間は取れませんか」

「ああ、Hさん、いま羽田に人を送っての帰り道です、何かいいお話でも・・」

「そうですね、私達がこんな事を頼んではいけないと親父に言われていますが、
 ちょうど大きな仕事が入って、特殊な合成樹脂を下請けが欲しがっています、
 それで〇社長さんのところを思い出したので、ご迷惑だったでしょうか」

「Hさん、貴方の心遣いは嬉しく思います、ただ私はうちの相談役も亡くなって
 いま一緒に会社を興した友人も田舎に帰りました、私も既に引退を決意して
 内部にも外部にも公表しております、三四郎さんの方からお話は聞いておられますか」

「いいえ、私などの下っ端には直接の声かけなんかありません、ひょっとしたらうちの
 親父クラスでも知らないかも知れません、そうでしたか、それじゃお願いするのは
 難しいですね」

「Hさん、私は貴方個人とは馬も合いますし、年は違うけど好意を持っております、
 だけど、私はいいのですが、後をやっていく若い連中は私がいなくなると捌きが
 できないと思います、この件は申し訳ありませんが」

「そうでしたか、大変なご無礼をいたしました、それに〇社長を仕事を介して巻き込んでは
 いけないと親父からもきつく言われておりました、つい甘えがでて、お許しください」

「お探しの特殊樹脂はxxという大手メーカーが製造しています、ネットでお調べください
 直接の販売はしないと思いますが、そこの代理店一覧が載っているはずです、その代理店
 の二次店なら多少は高くなりますが、品物は入ると思います、私はそれらの商社は知りません
 ので、Hさんならパソコンで直ぐに調べられると思います」

「ありがとうございました、〇社長、お食事まで駄目とは言われないでしょうね」

「言いませんよ、私如きで良かったら今度また寿司でもつまみましょう」

電話は切れた、

由のマンションの近くの駐車場に車を入れた、

いるかな、いなければ帰る理由になるのだが、そう思って携帯の登録番号を押した、

「はーい」

居た、黙っていると「なーに、〇ちゃんでしょう、どうしたのお茶でも飲みにいらっしゃい」

懲りない男だな俺も、人に説教垂れる資格なんか無いな。

車を降りて歩いて信号を待っていると、F君から電話が入った、

「いま着いたよ、暑いな、でも建物は低いし道路は広いよ、これから田舎で馬鹿になるよ
 〇君、元気でな本当に」

「君もな、淋しくなったよ、人を見送るってどうしてこう淋しいのだろうな、
 歌にもあるよ、女はいつも見送るばかり、たまには私も見送ってって、知っているか」

「ああ、君が何回か歌った歌だ、俺にも君を見送らせろよ、いつも見送られるばっかりだ」

「たまには声を聞かせてくれ、そうでないと君は田圃の中で頓死していると思うぞ」

空虚な気持ちに鞭打つように、ふらふらと由のマンションに入る。





  、
 
 

三四郎外伝「いつでも夢を」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 7月 6日(木)18時49分9秒
返信・引用 編集済
  最近コマーシャルで吉永小百合が「いつでも夢を」と歌っているのを見た、
記憶は遠く飛んで 大袈裟だが私に人生をふり返るきっかけをくれた。

ずっと昔だが、
私よりもかなり年上の先輩が田舎のホテルを貸切にして結婚式をあげた。

結婚式の時に先輩と花嫁は寄り添うように 一緒にこの歌を歌っていた、
幸せを絵に描いたようなあの時代では高い高い山の上に咲いた真っ赤な花を見るようだった。

人生には誰にでも浮き沈みがある、
沈みっぱなしの人もいる、その反対に親の七光りで高い虹の橋の上で一生を終わる人もいる。

普通の人はそうでは無い、裸一貫で苦労が報われて一国一城の主になるものもいた、
だが人生の無情な点はどん底から苦労して浮き上がった人ほどその絶頂期はごく短いものだ。

何人かの人の事も知っている、
「凄いなあ、あの人が、運転手つきのベンツに乗っているよ」と彼の昔を知る人は
賞賛とも妬みとも取れない複雑な思いで他人の出世双六を見ていた。

100万人に一人くらいの人がゼロから裸一貫で巨大な帝國を築き、それは世界企業に
まで発展し、揺るぎもしない帝王になる人もいるし、現にそんな人を知っている。

一般の人の中で「社長」と呼ばれて大きな革張りの椅子に座り、数十人の従業員に
君臨し、急に身なりがピカピカになり態度が鷹揚に変わる裸一貫の成功者もいる。

実はこの人たちが一番ドラマチックで一番私の興味を引く人たちなのだ、

裸一貫から苦労して突如成功の鍵を握った人には共通点がある、

大抵この種類の人は人間が正直でお人良しが多い、従業員にも好かれる、
女にも持てる、だが何かのきっかけと波でこの人の浮沈は急降下して沈むのだ。

過って社長と呼ばれてある時代を経験した人の中には沈むときにギリギリのところで
判断して負債に転落するのを避けてこれまでの蓄えで後は社長時代の夢の中である時は
残念だと臍を噛むが、結局はこの見切り時が彼の人生と命を助けた事に後で気がつく。

人間と同様に、裸一貫で興した中小企業にも寿命がある、
それを見極めて儲けは捨てても手持ちのものは守った人が生き残る。

もっともっとこんなはずじゃ無い、と頑張った人は全て銀行保障と借金の海に沈んでしまう。
だが、見切り時を決断できる人は少ないのだ、来月は、その次はと期待してはなけなしの金を
会社の維持費に投入する、

最悪なのは、銀行貸越をついつい個人保証で手をつけてしまう人だ、
破滅、それしか行き着く先は無い。見切り時を知った分だけまだ運があったと感謝できる
人はラッキーだ。

「いつでも夢を」を歌った先輩も無一文のサラリーマンからあるきっかけで起業をし、
苦労の果てに革の椅子に座り、秘書を連れ、ベンツの運転手に命じて毎夜クラブを飲み歩く
花の時代を経験した、その様子は田舎にも伝わってきた。

彼は全部現金で彼の過ごしたボロ家を敷地を三倍に家も豪邸に建て替えた、
あの頃の彼は常に四五百万の現金は簡単に持ち歩いていたと近所の人の噂が大袈裟に流れた。

村で一番貧乏なクラスからとうとう東京で社長さんになったそうだと、話題の少ない田舎では
彼の出世話で持ちきりだった。

私も一度、彼が車で帰郷した折に豪華な外車が狭い道路をふさぐ様に停まっているのを見た、
彼のお袋さんは年取って痛めた足を引きずりながら一人息子の出世に喜んでいた、

お袋さんの痛めた足は彼を大学に入れる為に養豚を女手一つで手がけた無理が祟ったのだ、
私はその家の事は良く知らなかったが、おふくろさんの皺だらけの顔とびっこを引く傷めたからだが
痛々しかった。

だが、豪邸が完成してたった二三年でお袋さんは亡くなった、彼は豪勢な葬式を自宅で行なった、
大概の人は村の施設で葬式を行なう、それは人を沢山招くほど自宅が大きく無いからだ。
彼の場合は村の半分くらいの人々が葬式に詰め掛けた、仕出し弁当は隣町の料亭から直接取って
参列の人々に振舞っていた、

そして、数年、彼の会社は傾き始めた、そして豪邸も人手に渡った、借金を作った証拠だ、
人生の夢は一度だけ、それもごく短いカーブでしか訪れないことを私は本能的に感じ取った。

そしてその人が最後はどうなったか、いいお兄ちゃんだった優しい人だった、そして成功して
親孝行も果たした、だが彼の夢は全部で10年のピークも持たなかった。

人生の成功の夢は誰にでもチャンスが来る、そして波に乗れた人は社長と呼ばれる人になる、
だが、人生は残酷なものだ、夢が大きく現実になった人は、少しくらい会社の成績が落ちても
なーにもう一度のチャンスはあると信じる、

見栄もある、ここで凹みたくない、挽回するんだと自らに鞭を打つ、
だけど人生劇場の原則を知っていたら、もう夢は消えつつあるんだと気がつかなければならないが、
言うは易し、行なうは難し、次がある、頑張ろう、人員整理をし事務所も安いところに引っ越す、

儲けた金は見る見る固定費用で消えていく、手持ちの自分の貯金を投入する、それも蒸発する、
そして月末の支払いが少し足りないという経理の言葉で銀行の貸し越しを申し入れる、所謂
オーバードローと呼ばれる、取り敢えずの手軽な短期資金繰りだ。

原則として銀行は不動産担保と個人保証を要求する、たいした金額じゃないと彼はそれに嵌っていく、
見る見る毎月の積み重ねで、まだ大丈夫だ、まだ俺の資金の範囲だと思っているうちに、
それが洪水のような鉄砲水で溢れてくる、

手持ちの自宅と同額な金額にまで膨れ上がっていく、この時点で債務超過だ、
家族に心配させたくない、真面目な良い人ほど、この重要なターニングポイントの決断ができない、

かくして裸一貫できらきらと立ち上げた会社は従業員も危険を感じて一人、二人と辞表を出してくる、
こうなると坂道を転がるように、毎月の固定費用だけの積み重ねで二億、三億の金額は二年くらいで
吹き飛んでいく。

これが、夢の正体だ、勝ち組は博打で言えば、時間が無いので急いで女のところに行かなくちゃ
ならない、大勝ちしているのに、女に引っ張られてそこで博打を打ち切る人、これが実は勝ち組
なのだ、

見切り千両、夢というのは見切る事のできない人には凶器になる。

その彼がその後どうなったのか、書かないでおこう。

「♪星よりひそかに 雨よりやさしく

  あの娘は いつも歌っている

  声が聞こえる 淋しい胸に

  涙にぬれた この胸に

  言っているいる お持ちなさいな

  いつでも夢を いつでも夢を

  星よりひそかに 雨よりやさしく

  あの娘は いつも歌っている」

人生って奴は、何とドラマチックなのだろうか、
浮いて沈んで また沈み、

私はいつの頃からか 自分の周囲で起こっている事は全て自分に取ってはいい事なのだと
言い聞かせることにしている。

悪い事が起こっても、もっと悪い事が避けられたと思うだけで心が救われる。

だが人間は一度高い位置に上っていい生活をしたら、それが懐かしくて
「もう一度夢を」と考えがちなのだ、ところが「夢」は一度きりしか無いという事実を
知る頃には もう何もかも遅いのだ。

要するに博打で儲かったらさっと引く、儲かっていた会社が沈み始めたら思い切り良く
さっと引く、

この人だけが生き残るのが人生劇場だ。

相談役は亡くなった、あの突破もののグレ息子が立派に喪主を務めた、
相談役の人生は終わった、人間死んだら終りだ はかないものだ。

最後の段階でF君が金を出し渋った、

「おい、F君よ、俺達できるだけのことをしようと約束したんじゃ無かったのか
 いま、奥さんの前で決めた金額の半額だと?」

「すまん、急に俺も老後の事を考えて、いま別に収入がある訳じゃないし、
 許してくれ」

「許してくれだと、  俺の立場はどうなるんだ、もう二人の金額を奥さんに伝えてある、
 奥さんもこの息子さんも両手をついて俺に涙を流してお礼を言われた、

 F君よ、無理強いはできないけど、男が一旦決めて口に出した話だ、それじゃまるで
 相談役に恥をかかせたのと同じじゃないか」

「〇君、すまん、これが俺の弱さだ、自分ではどうにもならんのだ、君のいう事は
 良くわかるが、俺にもこれからの生活があるんだ」

「F君、葬式の席でこんな事はいいたく無いが、そんな生き方は間違ってるぞ、
 何で最初から半額の金を言わなかったんだ」

「〇さん、もう止めてください、Fさんもお金のことでしたら、主人も望まないでしょう、
 どうかお二人の喧嘩は止めて下さい」

「奥さん、すみません、みっともないところをお見せして、じゃこれは一応、私の分と
 彼の分が現金で入っております、おい、そこの息子さんよ、いいか、おふくろさんを
 泣かすんじゃないぞ、俺はまた時々相談役のお位牌を拝みに来る、その時、またやんちゃ
 をやってると知ったらタダじゃ置かない、覚えておけ」

「〇さん、良くわかりました、先日来のご無礼を許して下さい、〇さんの言いつけを守って
 まともな仕事につくつもりです、ありがとうございました」

「F君、帰ろう」

「♪俺の 心を知りながら

  何で黙って 消えたんだ

  チャコ チャコ 酒場に咲いた花だけど

  あの娘は 可憐な

   可憐な 娘だったよ」

「♪夢のないのが 淋しいと

  霧に濡らした 白い頬

  チャコ チャコ

  忘れはしない いつまでも

  あの日の悲しい

  悲しい まなざしを」

「そんな歌があったなあ、俺はこの歌をうたうととっても悲しい気持ちになるんだよ」

「それって 君がいつか言っていた ノラの女性か?」

「まあな」

「誰だよ」

「千雪だよ」

「千雪さんか・・そういえば君がそう思う気持ちも解るな、彼女はいま君が歌った
 夜霧に消えたチャコの雰囲気を持っていたな」

「もう、言うなF君、君はまだ いつでも夢を 持っているか」

「夢か、夢には年齢制限があってな 淋しいもんだよ、さっきの俺の金のことなあ、
 娘が結婚するんだ、俺にはもうしてやれる銭はないんだ、みっとも無い格好見せて
 しまったよ」

「そうだったのか、娘さんは幾つだ」

「もう40歳で初婚になる」

「そうか」

「人生劇場、俺達もいくつの峠を越えてきた、節目節目に
 夢と涙がこびりついている、人生短すぎるよ」

「♪星よりひそかに 雨よりやさしく

  あの娘は いつも歌っている

  声がきこえる 淋しい胸に

  涙にぬれた この胸に

  言っているいる お持ちなさいな

  いつでも夢を いつでも夢を

  星よりひそかに 雨よりやさしく

  あの娘は いつも歌っている」

終わる時は終わろう、人生は過ぎたことは取り返しがつかないのだ、

これから夢を見る時は 三途の川を千雪の手を引いてわたる夢だ、

それでいい。

「夢の無いのが 淋しいと

 霧に濡らした 白い頬・・・」



 

三四郎外伝「遠い日の・・」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 6月11日(日)00時01分42秒
返信・引用 編集済
  あれは私がまだ20歳になったばかりの頃だった、
社長も元気で私はアルバイト労働者か学生かわからぬような
生活をしていた。

19歳の時に三四郎さんに命がけの輸血を行なって生死をさまよった、
助かった私はどん底のゴキブリから大勢の人が手を伸ばして引き上げてくれた、

私の仕事は倉庫の重いダンボールの上げ下げと社長の外車の運転だった、
その合間に学生をやっていた、私は川の流れの中に流されて浮き沈みそしてまた浮いた。

社長を新宿の某所に送り届けて車を拭きながら待っていた、
夜は11時過ぎていた、しょぼしょぼ雨が本降りになろうとしていた。

「おい、〇ちゃん、すまねえけどよ、近くなんだけど向かえに行ってくれ」

「はい」

私は立ち上がって車のドアを開けた、その男はYさんの下にいた私はあまり親しくない
人だったが、頼まれたら仕方なかった、「社長に連絡していいですか」「俺達の方で
さっき連絡して〇ちゃんを借りるとことわってあるから」
「そうですか、誰を迎えに行くのですか」

「俺が一緒に行く、車出してくれ」

雨でタクシーが込む中を大型の外車をすり抜けるのは大変だった、
「その先の信号を左に曲がってまっつぐ行ってくれ、すまねえな」
「はい」

車を30分くらい走らせて本降りの雨の中であるスナックの前で停まった。

「〇ちゃん、ちょいと時間がかかるかも、一緒に来てくれ」
「私などが、ここで待ちますよ」

「いいから来な」

私は男の後をついて紫色の看板の灯が見えるスナックに入った、
店の中には昇さんがカウンターにいた、隣に見た事が無い男がいた。

昇さんが「おう、〇ちゃん、すまねえな、まあ坐れ」
「いえ、私はここで大丈夫です」

昇さんの隣にグレーの背広にノーネクタイの男がいた。
一緒に来た男は昇さんとその背広の男に頭を下げて「失礼します」と礼をした。

その男が私の方を振り向いた、「そうだ、この男、一度ケンさんと一緒のところを見た」
私は思い出した。

誰を車に乗せるのかと私が躊躇っていると、

昇さんが「兄弟、車が来た、先に行ってくれ」とボツンと言った。
男は昇さんと迎えの男に頭を下げて、私にもニコッと笑いかけた薄いサングラスの奥の
眼は鋭いが悪い人では無いと直感した。

車の後部ドアを開けて男を乗せた、「どちらまで行かれますか」
「本部まで頼めるか、すまねえな」男はボツンと言ってタバコを吸い始めた、

車のバックミラーで私と男の眼があった。

「あんた、Yさんところの若いものか」
「いいえ、私は学生です、アルバイトで社長の使い走りをしています」
「社長てえのは?」

「xxさんです」

男はそれきり黙った、

次にその男に会ったのは半年ほど経ってからだった、
私が千雪と食事の後で映画を観て駅に向って歩いていく途中で

あの男が角のバーのドアを開けて出てきた、

「おう、あんたか、こないだはすまなかったな、あんた、理事長の・・」

「いいえ、違いますよ、三四郎さんが勝手にそんな事を仰っているだけです」

「聞いたよ、ちょっと付き合ってくれ」「これから彼女を送って帰る途中ですので」
「まあいいじゃねえか、姉ちゃんも一緒にちょっと坐ってくれ」
有無を言わせぬ男の迫力があった。

「でも・・」

「恥かかすものじゃないぜ」

「では・・少しだけ、千雪いいか?」
「・・」

私達は男が出てきたバーにまた連れて行かれた。

奥のボックス席で男は高給なウイスキーとブランデーをテーブルに運ばせ、
店のママさんらしい女性が横に坐った。

「あんた、セイガクか、そうは見えネけど、まあいいや」
「本当ですよ、私は何も知らない田舎者です」

「そうかい田舎はいいよな・・、姉ちゃんも同じものでいいか」

ママが頷いて私たちに飲んだ事もない高給な酒が出された、千雪は最後まで固くなって
グラスには手をつけなかった。

私はこの男の正体は知らないが、Yさん達との関係があり、このママの恋人だと
直感した。

ママは影のある、どこか淋しそうな横顔の女だった、

「あんた、昇の兄弟とは親しいのか」
「いいえ、昇さんが良く社長のところに来られるので顔見知りで可愛がっていただいて」

「あんた理事長のつながりだろう」
「違いますって」

それから又縁があって、この男に食事と酒を振舞われた事があった、

男は名は名乗らなかった、最後まで。

「♪雨の夜来て ひとり来て

  わたしを相手に 呑んだ人

  私の肩を そっと抱き

  苦労したねと 言った人

  ああ あなた 遠い遠い日の

  わたしの あなたでした」

「♪俺の命は 君にやる

  わたしに嘘を ついた人

  死ぬほど好きと 言いながら

  いつか遠くへ 消えた人

  ああ あなた 遠い遠い日の

  わたしの あなたでした」

何回かこの歌を男と一緒のバーで聴いた、

それからある小競り合いから北関東にかけての抗争が起こり、
新聞でもその様子を読んだ、

男の消息はそれを境に消えた、

私は意を決してあのバーを訪ねてみた、バーは閉店いたしましたという張り紙が
風に揺れてシャッターが下りていた。

昇さんに会ったときにそれとなく男の事を聞いてみた、
「良く知らねえんだ、悪いな〇ちゃん」昇さんはそれ以上の事は何も言ってくれなかった。

「♪俺の命は 君にやる

  わたしに嘘を ついた人

  死ぬほど好きと 言いながら

  いつか 遠くへ 消えた人・・・」

いつか私もその男の事は忘れていった、あのバーのあった場所は何かの店に
なっていた、私は後に会う池袋の男に共通した寂寥感をあの男に感じていた。

男はあの時30くらいだっただろうか、身奇麗でぐっと押すような迫力があった。、

私が惚れた男はみんな似ていた、寡黙で二人きりの時は、自分の兄のように優しい人だった。
後にYさんがボツンと私に言った「あいつか? 男になったんだ、もう忘れろいいか」

沢山の男が私の側を通り過ぎて行った、私は彼等を見ながら少しづつ大人への階段を上がっていった、
幸も不幸も運が9割、そして1割の努力、私は世間の常識とは異なった人生観を持つようになった。

父親に早く死なれて父性愛に飢えていた私は取り分け目の前に現れる男達に敏感だった、
諦めも別れも運命のほんの片隅に触れただけ。

川は流れた、

夢は錆び付いたまま橋のたもとに淀んでいた、
それをぼんやり眺めるだけで私の人生も病葉を浮かべて今日も流れた、

私の耳の中にはずっと「川は流れる」という仲宗根美樹さんの歌声があった、運命と運否天賦と
忘れることがいつか身について行った。







 

三四郎外伝「風速四十米」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 5月25日(木)14時01分50秒
返信・引用 編集済
  命に限りがある、人は必ず死ぬんだとずっと前から
解っていても人間というのは往生際の悪いものだ、この私のように。

65歳で高齢者の仲間入りをし70代を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と
区分けされている。

みんな人生をまっしぐらに走ってきた男達がふと気がつくのはきっと免許証の更新の
時だろう、65歳はまだ走ってきた若い気持ちをひきずったままで気がつかない。

70歳になると免許証は単なる更新では無くて近くの自動車教習所で目の反応検査と
実技運転の試験がある、だがこの辺までは何の問題も無く簡単に形だけで通過させて
くれるそうだ。

問題は後期高齢者に属する75歳以上の人たちだ、
まず切り替え時期に警察から案内が来る、だがその検査条件項目が大変らしい、

まず「認知症検査」を予約して自動車教習所で行なわなければならない、
次に再度最初の前期高齢者が受けた目の視野ととっさの反応試験があり最後に実技試験。

こんな段階だけど、その人たちに聞いて見ると、異口同音に
「自分も年を取ったのだと嫌でも実感させられる、社会から引退せよと責められるようだ」

こう感じるそうだ。

いくら長生きになったとはいえ、男性には幾つかの関門がある、
まず70代の後半、77,78歳、ここらで人生を終える人が多い、

次は80代の84歳、という統計的な関門がある、男性の一生は免許証が3年に
なったらほぼ棺おけに両脚入れて立っている状態だと考えて間違いない。

裕次郎の歌に「我が人生に悔い無し」という歌がある。

だが人間そうそう悟れるものでは無い、人生に悔いなしと言い切れる人がどれほど
いるだろうか、人はみな遣り残した事、やり直したい事、遠く故郷の五月の青葉を見るように
自分の若き日々を思うのだろう、無為に過ごした時代へのやりきれない思いはみんな持っている。

老後の事なんか考えるな、金なんか持っては死ねない、
終活なんかするな、こんな事を言う人もいる、私も同感の部分はある。

だが免許証ではっきりと「あんたはもう長くは無いんだよ」と知らされた時には
みんなはショックを受けないのだろうか、70代後半と80代前半の関門を越えられる
人は幸せなのか、残した妻子を気遣いながら早々に旅支度をさせられる働き蜂たちの
心中はいかに、ふとそんな事を考えた。

F君と呑んだ帰り道、私の携帯が鳴った、
相談役の奥様からだった、「主人がたった今息を引き取りました」という嗚咽だった。

「F君、とうとう相談役が逝かれた、苦労をかけた奥様を残してきっと心のこりだったろう、
 もう一度会社に帰ってくると私に何回か言われたよ、悔しいなあ、なあF君」

「やっぱり駄目だったか、これからどうする」

「今日はお通夜だろう、こんな酒臭い息を吐きながらじゃ親類の方々にも申し訳が無い
 明日がきっと葬式だろう、どこでやられるのか今から聞いてみる」

とうとう一人きりに残された、会社は誰がどうするが一番いいのか、心は乱れた。

逆風が強く感じられた。

おそらくDさんや物腰の柔かいHさん等は参列を希望されればそう計らいたいが、
一応知らせて置いた方がいいだろう。、

逆風だ、人が死ぬなんて逆風に決まっている、「くそっ」、私は拳を握り締めた。

帰り道に私は酔いに任せて不謹慎だが歌をうたった。

「♪風が吹く吹く やけに吹きゃがると

  風に向って 進みたくなるのさ

  俺は行くぜ 胸がなってる

  みんな飛んじゃエ 飛んじゃエ

  俺は負けないぜ・・」

「♪風が吹く吹く やけに吹きゃがると

  街に飛び出し 歌いたくなるのさ

  俺は歌う 俺がうなると

  風もうなるヨ 歌うヨ

  俺に負けずにヨ」

「♪風が吹く吹く やけに吹きゃがると

  風と一緒に飛んでゆきたいのサ

  俺は雲さ 地獄の果てへ

  ぶっちぎれてく ちぎれてく

  それがさだめだヨ」

「負けるもんか という気持ちの時にな、若い頃良く歌ったよ」

「金はどうする」

「そうだな、明日の葬儀に香典として100万くらい包みたいが
 この頃は香典泥棒も多いし、Hさんもそのくらい持ってくるかも知れないので
 香典は1/10 くらいにして後は奥さんに手渡しの方が」

「それで、残りは、俺はバックにいれて君の家に置いてあるが
 それはどうする」

「奥さんの名義で口座を作っても贈与になる可能性が高いし、明日奥さんと
 息子を混ぜて相談しようよ」

「風が吹くなあ、F君、君体には気をつけろよ、塩辛いものあんまり食うなよ」

「うん、なんだか淋しいなあ、俺と君もいつかはどっちかが先に逝くんだろうな」

「こんな事、ちょっと前まで考えなかったけど、人は必ず死ぬんだ、
 どうしようも無いよ」

家に帰って、早紀子にも話をし、DさんとHさんにも携帯で伝えた、
S営業部長にはF君が、その他の会社の主だったスタッフにもF君が、
取引先、銀行、親しいところにも担当者に直接真夜中に携帯で伝えた。

「♪風が吹く吹く やけに吹きゃがると・・」

私はベッドの上に背広のままでどさっと横になった、目じりの端から糸を引くように
涙が顔を伝って落ちた。

若い時に母からの手紙を読んだ時に薄い煎餅布団の中でやはり同じように目じりの端から
涙が伝わって落ちた、翌朝には白く涙の跡が残っていた、

「くそっ!」私は壁にパンチをぶち込んだ、もう柔になっている右手の甲の指が切れて
だらしなくも血が流れた、

「相談役、お世話になりました、私もおっつけ参ります、元気なお姿で私を迎えて
 下さる事を祈っております」心の中で二度三度と呟いて、

酔いもあって背広を着たままで
眠りに落ちた、早紀子はそんな私に後で薄い毛布をかけてくれたようだった。



 
 

三四郎外伝「別れの入場券」」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 5月21日(日)23時17分43秒
返信・引用
  好きな人とのお別れも

せめてこの曲くらいリズミカルなら立ち直りも出来るのに、
妙に湿っぽくなるこの頃のお別れ。

昭和という時代の輝きを再び味わう事が出来るなら、私は何も要らない
欲しく無い、・・何にも持っていないけど。

最近の殺伐たる人間関係はどうした事だろう、
すぐ切れる、逆切れをする、男も女も頭にくるとすぐ殺す。

昭和の時代にはそこら中で喧嘩や斬りあいがあった、
駅のホームで転げまわって取っ組み合いをしている姿はもう慣れっこだった、
誰も特に気にも留めない、駅員も知らん顔、犬の噛み合い程度の日常の喧嘩だった。

だが現代の喧嘩は尾を引く、
湿っぽく陰湿に尾を引く、付けねらいずっとずっと相手を狙う、
職業的な殺し屋でもあるまいに、ちょっとした事が恨みを買い、
結末は殺された方も殺した方も人生そこで投げ捨てる。

きっかけは、眼があった、
肩が触れた、睨まれた、挨拶を無視された、些細なきっかけでストーカーが
生まれる、女に片思いして付けねらい、何の罪も無い若い女性を惨殺する。

反対もある、
男は刃物、女は毒薬を駆使し、小さな小さなきっかけで人を殺す、

私は若い頃、
職業的な人達同士の凄まじい斬りあいを何度も側で目撃した、
だけど、陰湿ではなかった、

「ちょいと待ってろ」

と言われて上着を預かり路地の入り口に佇んだ、奥では火花の散るドスの
やり取りだった。

私自身はそんな経験は無い、だが私の側では何度も映画とは比べ物に
ならないまさに体が硬直するような男同士の咆哮をマジかに見た。

「行ってくる、〇、達者で暮らせよ」

そのまま黒い影のような男の後姿について行った、怒声と光るものが暗闇に見えた、
私は心配でじわじわ近づいた、確かに見た、血が吹き飛ぶのを、
だけど陰湿では無かった、個人的な恨みじゃない喧嘩勝負だったからそう見えたのか。

私には友人は少ない、
日本人ではF君と三四郎さんに繫がる人達だけだった、

アジアでは香港、シンガポールに「俺の眼を見ろ何にも言うな」で通じ合う
友達が出来た。アメリカでも同じような友人が出来た、みんな今に続いている。

世の中は進んだのかどうなのか私にはわからない、
運否天賦平穏でもいつ倒れるかはわからない、昔は良かったという言葉には
いろいろあるだろう、私には昭和の時代のど真ん中が幸せだった。

F君が上京してきた、羽田に車で迎えに行った。
「やあ」「おう」まるで小津映画のような切れ切れの会話で十分心は通じる。

「どうだ」「うん、ここ何日だろうな」「そうか、君はどうなんだ」
「俺か、あの世が近くなって来た、わかるのはそれだけだ」

「もう一働きしたいな」「俺もそう思う、だけど無理だよ、もう目の前に壁がある」
「そうだな」「うん」

「奥さんとは上手く行っているか」「もう空気のようなもんだ」

「今回悪かったな、君に金を出させて」「いいさ、どうせ、相談役や君が生んでくれたものだ」

「いや悪かった」「もう言うな、先に靖国に寄ってくれないか」

20代の頃からの私達二人の習慣だった、靖国にそれぞれの思いを抱いて頭を垂れる、
なぜか帰り道は清々しい。

「俺達も、相談役とも家族とももうすぐみんなお別れだな」

「仕方無いさ、毎日のように死を考えるよ、それでいいんだ」

「君を東京駅に送ったあの時は2人とも若かったな、夜汽車っていいもんだな」
「今は飛行機になったが、夜汽車の別れの方がずっといいな、涙を拭く時間もくれるしな」

「あの時は入場券を買って君をホームに送った、今は入場券なんかもう無いけど」
「あの頃の切符も入場券も、夜汽車の泣くような汽笛も良かった」

「♪ひと目逢いたい それだけで

  息をはずませ 転げて来たに

  あの人を乗せた夜汽車は

  いま出たところ

  泣きの涙で 入場券を

  握りしめても ああ遅い遅い

  もう 遅い」

「♪憎い冷たい 女だと

  きっと私を 恨んでいよう

  お別れに せめてはっきり

  ほんとの気持ち

  言ってさよなら したかったのに

  それも今では ああ 遅い遅い

  もう 遅い」

「♪闇にすわれて 消えてゆく

  テール・ランプが 目蓋に沁みる

  許してね くずれ折れそな

  身体を支え

  ひとりしょんぼり ホームの隅で

  背伸びしたとて ああ 遅い遅い

  もう 遅い」

「知ってるか、こんな歌」

「始めて聞いたよ、君は歌が好きだなあ」

「あの時の俺の気持ちだよ」

「よせよ、気持ち悪い、これ女の歌だろう」

「昭和の時代はな、男は男で女は女だった、だけど男と女は共通の仁義のような
 そんな通じ合うものがあったんだよ」

「いろんな事があったな」

「よーし、家についた、荷物を放り込んで、 シャワーでも浴びろ、
 今夜は呑もう」

「うん、呑まずにいられるか、呑もう」

「♪泣きの涙で 入場券を

  握り締めても ああ 遅い遅い

  もう 遅い」

私の心には今でも入場券と夜汽車のテール・ランプがはっきり見える、

もう 遅い・・・


 

三四郎外伝「ノラ」

 投稿者:彗星  投稿日:2017年 5月13日(土)22時55分17秒
返信・引用 編集済
  背の低い肝っ玉の小さな大嘘つきがいた。

私は人に騙されることは無いと思って生きて来た、理由は危険を察知する
本能的なアラートが自分には備わっていると信じていたし事実その第六勘は
確実に的を捉えていた。

だが結果的に私はその背の低い仏像のような顔をした男に騙されて
まとまった大金を失った。

真相は闇の中だが、
人の欲に付込むという基本的な詐欺形態は同じだった、私にも経営上の欲があった
間違いなく会社を安全に社員をハッピーにしてやりたい、自分も会社と言う傘の中で
好きなクラスのクレジットカードを手に入れる事が出来たし、銀行でも車の会社でも
秘書の電話一本で即座に最上級のカードが届き、銀行はあらゆる便宜を計ってくれた。

あるとき、そう三年くらい前から会社の利益が(P&L)の数字が妙な動きをし始めた、
私は気がついていた、利益率が減っているのだと。

さらに売り上げも急カーブで減ってきた、客先は全て健全で何もビジネス環境に変化はない、
それなのに、三年前、そして昨年のP&Lの数字が低くなってきた。

売り上げと利益の両方がどこかに洩れている、
私は必死に数字と仕入先と売り先の状態を調べた、何も異常は無かった。

そこに営業の中心人物に上がってきた50くらいの背丈が150cmくらいの男が
殆どの営業関係を掌握し一人で何か短い腕でこちょこちょ夜10時過ぎまでやっている
姿を何度も目撃した。

「ご苦労さん」私は声をかけた、150cmの男は売り上げの下がった理由に
思いもかけないポイントを私に提示した、それは不要になった海外オフイスの閉鎖が
客先の不信感を招いて古い顧客がわが社から離れ始めたという話が一つ。

利益率が低い理由は150cmに言わせれば、メーカーが値上げをした為に当社の利幅が
低くなった、それがP&Lの悪化の主原因ですという彼の論法は堂々としていた。

小さな体からかなりの大きな声を発する、人をなるほどと思わせる説得力がある、

だが不要になった某海外支店の赤字続きを閉鎖した事で客が当社を信用しなくなった
というストーリーに私は疑問を持った、

関連付けが出来ないほどの売り上げのダウンと平均利益率の急速なダウン、
このままで行くと、会社を縮小か閉鎖まで考えざるを得ないと感じて、

その150cmの男と長い時間話をした、
一つ妙だと思ったのは、30分前に言った話が30分後には変ること、巧妙だったけど
私は何かの人為的な嘘を感じた。

二年間で合計1億の金はどこへ消えたのか、150cmの生活ぶりは質素で金とは
全く縁の無い人生運とは隔絶した人物と理解したが、裏の顔までは解らない。

とにかく嘘が多い、それも小さな嘘がくるくると連続して繰り出される、
1時間も話していると、初めの話とは関係の無い別の話の別の原因が掲げられ、
それを克服する為にには更なる投資が避けられないという経済学者顔負けの嘘の連続
一人舞台を繰り広げた。

その赤字会社は我々の下部にある子会社でありそこが本部の利益を侵食していると
感じた、私はこの150cmとあわせて子会社ごと葬り去る用意と根回しを周辺から
行った。

時期も綿密に考えた、この150cmが奈落に落ちる仕掛けを用意し、
仕入先の主なところとは密かに根回しをした、

その前にこの150cmに対してこいつが絶対に気がつかないだろう
だが法的には完璧な仕掛けを150cmの周辺に張り巡らして同意の書名と印を押させた。

私はこの150cmが自分のトンネル会社を社内につくり利益を抜いていると見抜いた、
売り上げは故意に落として利益はポケットに、その後で自分が会社建て直しの主役に
なるべく会社乗っ取りのステップを積み上げているのを察知した。

訴える事も可能だ、業務上横領と背任だ、
だが私はある日突然、子会社の倒産という荒療治を行った、もちろん彼の発行した
支払手形五枚をブロックして不渡りにした。

否応なしに150cmの居場所には整理屋が乗り込み脅されてたたき出された、営業停止だから
メーカーからはものは入ってこない、売りは子会社をスキップして親会社から直接入れる、その子会社は
入りと出の両方を塞がれて、倒産はさせないが、意味の無い抜け殻になった。

そこに150cmの支払手形が町金に回るように絵を描いた、ある日、ドンと破裂した。

150cmは必死に抵抗した、

それこそ唐傘一本背負わせてたたき出した、小さな150cmの策士がびっこを引きながら
大きなぼろカバンを提げて駅に向かうのを見た、これでいい。

一つ一つ周辺からゴミをDeleteしなければスクリューにゴミが絡みつき何時の日か自分も
渦に引きずり込まれる。

老後破産などは考えないことにしている、
いまあるだけの金を思い切り使い切って、これも周辺からDeleteするつもりだ。

好きな時計も買うがいい、お洒落なブレスレットを腕につけるもよし、
食べ物は多くは食わない、だからデパート食品売り場の最高級品を買って帰る、

カードも使う、預金がゼロになった時点であの世への一直線だ、
日本のような後進性の国家の税制では税金を支払って貯めた金を誰かに譲渡すると
譲渡税が生まれる、死ねば相続税が待っている。

海外先進国では最初の収入源に所得税、地方税を祓えば、その金は完全に個人の
クリーンな金だ、それを息子にやろうと女房にやろうと恋人にやろうと税金問題は
原資に問題がなければ何も起こらない。

死んでも最初に税金を支払って貯めた金には何の税金もかかってこない、
最初の所得税と地方税はその国の医療の充実と軍隊を保有しているかどうかで大きく変る、

日本のように軍隊の無い国でこれほどの税金を支払う国は世界に無い、
最高に国家の財源を消費するのは軍と医療費だから。

高齢少子化問題がことさら大きく宣伝され危機感を煽っている、
同じ事じゃないのか、少子化の若年層もいつかは高齢者になる、それは高齢層が
小さくなる事と同じだ、一時の我慢も出来ずに無闇にいま働く若者から税金を
取り立てる浪費国家日本は今にそれで潰れるし、外国の富裕層も決して日本に永住など
しないだろう、

マネーロンダリングが煩く言われる、当たり前だ、先日の九州の事件でも
出所不明の金が外国にわたり、一旦現地通貨に変換されてもう一度日本円に直されれば
綺麗に洗濯がすんでしまう、これがマネーロンダリングだ。

犯罪の金をストップするのは重要だ、国外に現金で出て行く巨額な金には胡散臭い
ものが付きまとう、だが国外から日本にはいる金にまで四角四面に規制規制の掛け声で
国内に持ち込める現金などは100万円に制限されている。

100万円とはUSD1万ドルに過ぎない、これを規制する日本と言う国の住みやすさは
いかがなものだろうか、良く言われる「Japanese Dream]は存在しようが無い。

トランプの塀よりも高い規制の中で若い人がアップルの創業のような大企業を立ち上げたら
高額な税金と規制で潰されてしまうだろう。

日本のタクシーは高い、だけどタクシー会社も運転手も誰も儲からない仕組みになっている、
利用客が支払う料金の大半は税金と規制という国家の吸引機で吸い上げられて体を酷使して
働く運転手さんの収入が上がる隙間が無い。

タクシー用の車は三ヶ月点検、毎年車検、さらにさらに規制規制でこれほど性能の良い
日本の車を不要な点検、車検などで巨大なタクシーの収入が全て天下りや役人の
ノーパンしゃぶしゃぶに消えていく。

高速道路も日本だけが有料だ、
先進国家の広い綺麗な高速道路も全部無料が当たり前だ、一昔前まではもぎり叔父さんと
呼ばれるお化け屋敷の入場整理のようなおっさんがぼうっと立っている、

その給料も全部基本は利用客が持ち、タクシー会社を飛び越してノーパンしゃぶしゃぶに
流れ、役人は鉢巻をして踊り狂う、不可解な国家だ。

トランプ大統領が日本の防衛費の増額を要求して久しい、米軍の規模を縮小する為だ、
だが日本の防衛費は先進、後進国を含めて世界一低い、これでは人件費で終りだ。

韓国が原子力潜水艦を持とうとしている、もちろん製造する技術は無いからフランスなど
から買うのだろうが、危険極まり無い、日本はF-3に手がかかっているがまだ20年の月日と
大反対が起こるだろう巨額な費用が必要だ、

巡航ミサイルもまだまだアメリカのものをそっくり買ってGPS,地理情報、衛星利用、全部
アメリカのものを利用してもまだ配備に五年以上かかるという不思議の国、
ノーパンしゃぶしゃぶの国家日本だ。

このような話をF君と長電話で話すことくらいしか鬱憤の晴らしようが無い、
国を憂う人は多いだろうが、息切れするのじゃないか、一向に進まない自衛隊の戦力、

憲法改正を安倍さんが必死になっている、例によって自民党の中から批判めいた口が
聞こえてくる、石破などがその典型だ、

人の事を影からブツブツ批判する名人だ、自分の防衛論議と憲法論議に彼が論戦を
張ったのを聞いたことは無い、これだから日本は駄目なんだ、なあF君、

「そうだな、俺なんかあの神宮の学徒動員のフイルムの方がずっと同感するし感動する、
 適わぬまでもあの意気込みを示せた戦前の日本は批判などできはしない、現在の日本は
 敗れて目覚めるはずの先人の遺訓などどこかに吹き飛んだノーパン国家だよ」

「俺と同じだな、海外に行くたびに日本の遅れが目に付く、制度上のものが主だけどな」

「大日本帝国のほうが、現日本国よりもしっかり芯があったという事になるな、
 負け戦は辛いけど、この祖国の為に突撃するんだという魂はもう日本には生まれない
 だろうな」

「相談役はどうなんだ」

「まだ息がある、延命の技術だろう、本人の意志を確かめることが出来たら
 それに従うことも仁術だと思うよ」

「奥さんはまだお若いのか」

「いいや、俺達より少し下か、下手したら同じくらいかも知れない」

「あのグレ息子はどうした?」

「人を頼んで引きずり出した、拉致監禁誘拐になるかもしれないが、一人の親父が
 苦しんで息を引き取ろうとするときに御託を並べて女といちゃついていた、
 余程暴力をと思ったが、年甲斐も無いので言葉は丁寧に行動は強引に首根っこを
 掴まえて病室に連れ込んだ」

「どうした」

「やっぱり突っ張っていても人の子さ、最後は親父にすがって泣いていた、
 俺にすみませんでしたと頭も下げた、それでいいんだ」

「そうだな、親は親だ、本当は国は国として尊重すべきだが、役人が日本を駄目にしている、
 それと反日通名日本人の暗躍を法的に規制できないのだろうか、規制大国日本が」

「F君、俺達、昭和の10年くらいに生まれたほうが今のこんな日本を見ないだけ
 幸せだったかも知れないな、南洋で砂を噛んで飢餓と病に苦しんで死んでいった
 あの時代の若い日本人は辛かっただろう、だが祖国を守るという柱があった、
 今の俺達にこんなノーパンしゃぶしゃぶの役人だらけの規制日本の為に命を
 賭けられるか、俺は乗らないな、まあ年も年だけどな」

「〇君、君は引退するって言ってたな、何をするんだ引退して」

「俺な、穂高なんかに登って澄んだ空を見てみたいんだ、空に座れし老人の心だよ」

「俺も連れてってくれ」

「ああ、戦友だからな、山の上で軍歌と山の歌を歌おうか」

「君、体は元気か」

「地雷の上に座っている心地だよ、そうは長くないだろう、苦しまずに死にたいな」

「あの世はあるか」

「物理的には無い、だけど精神的にはある、俺は三途の川を手を引いて渡ってやらなきゃ
 いけないある女がいるんだ、その時は、頭を撃ちぬいてさっと行きたいな」

「羨ましいぜ」

「♪やめて 下手な嘘

  抱いて 今はただ

  雨に濡れたノラ 帰りついた あんた

  いい女なら 割り切ってあげるわ

  誰となく 惚れてないと

  駄目な、 駄目な ひとなの

  好きよ 好きよ 好き

  愛はひとり芝居」

「♪だって二つ上 あたし 損な年

  どうせ 明日もノラ 街で悪さするの

  泣き落としには もう懲りていたのに

  しおらしい 顔を見れば

  ばかね ばかね からだが

  好きよ 好きよ 好き

  愛はひとり芝居」

「何だ〇君、電話で歌を、でも上手いな節も抑揚がきいてさ」

「褒めるのは戦友の君だけだよ」

「いや本当に君が車の中で鼻歌を歌っているのをよく聞いたけど、
 作曲家の弾き語りクラスだよ」

「よせよ、もうすぐ声も出なくなるさ、年には勝てない、加齢は体を崩していくんだ、
 聞こえるか、ガラガラ体が崩れる音が」

「冗談はよせ」

「ノラ、
 だって二つ上 あたし 損な年・・わかるかこの女の心」

「もう俺らの年齢じゃ65も70も80も同じ事だよ、いつでもぽっくりの覚悟だけは
 しておけよ、君の葬式に出るのは辛いから」

「〇君、君は昔は恋と女ばっかり語った、でも今は国家に対する不満と言うか
 檄というか、ストレスためんなよ」

「うん」

「誰だよ、君が手を引いて三途の川を渡らんといかんという女性は」

「それはいいよ、聞くなよ」

「自殺じゃ早紀子に保険は下りないかな」

「おいおい、冗談だよな、冗談だよな」

「そうさ、冗談だよ、心配するな、ところで何時頃上京してくるんだ、
 花の東京へ、マイペースのように最終電車に飛び乗って」

「今週でも行くよ」

「じゃ、俺んとこに泊まれ」

「奥さんはいいのか」

「かまいやしないよ、もう俺もここ何年だ、好きなようにさせてくれるよ」

「ノラって、誰だ」「しつこいな、歌だよ、ただの歌」


 

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